朝日を反射して輝いていたビルが、夕日を浴びて反射する。普段活気溢れる街に人がいないところはなかなか想像できない。例えば真昼のショッピングモールに一人も人がいない状態などだ。スカイレアタワー内部から人が消え、エスカレーターが止まっている状態は、普段は想像できない状態の1つだった。
 ティナは回転ドアを回し、中に入った。黒のズボンに青いTシャツ姿だ。Tシャツは小さく、腰周りが少し見えている。その上で、腹にウェストポーチをつけて、脇につけるガンホルスターにはマッドキャットを、腰の背中側にはオリオン・サブマシンガンをぶら下げ、Tシャツの上からジャケットを着て銃を隠している。ジャケットの背中には大きく「粋」と印刷され、灰色一色で描かれた豹が吼えている。その後ろを、野球帽に、短パンとティナから借りた黒いシャツを着たジョンが続く。小さめのシャツと言えど大きく、あまりかっこいいとは言えない。背中側にはティナから持たされたハンドガンである飛燕を差している。
 ドアが安全システムでロックされ、回転を止める。中には猫一匹いない。外には万が一に備えた、私服警官が待機していた。もちろん、トミーに悟られないように、細心の注意を払って行動をしている。
 トランシーバーの片方がメインカウンターの上においてある。ティナはそれを手に取り、スイッチを入れた。
「熱烈なファンさん、聞こえます?」
 ティナが声を吹き込むと、一瞬の静寂の後に、太い男の声が返ってきた。
『時間通りだな。トランシーバーは見やすい場所におかせてもらった。貴様が逃げるようならばこのまま爆破するつもりだったが、これでしばらくは遊ぼうじゃないか』
「そりゃどうも」
 ティナはジョンの方を振り返った。かなりの緊張に、彼は堅くなっている。なぜついてきたかを後悔している顔だ。
『ルールを説明しよう。10分ごとに爆発するように設定した爆弾が様々な場所に設置されている。最初の爆弾は2階事務室だ。簡単なクイズの答えを打ち込み、全て解体できたら貴様の勝ちだ。もし見逃したら、このビルも火で浄化されることになる』
 ティナは時計を見た。6時2分。もし開始時刻から10分ごとならば、あと8分で爆発することになる。急がなければならない。
「わかった。クリアしたらなにかご褒美はあるの?」
『できるはずがない!お前はどうせ死ぬんだから、天国に行けるように祈りでも捧げるんだな』
 ポケットから出した赤外線スコープをつけ、ティナは止まっているエスカレーターを透視した。どこにトラップが仕掛けられているかわからないこの状況では、うかつに動けない。
『ガキが震えてるな。今ならそいつを外に出すことを許可するが?』
 その言葉を聞き、ジョンはトランシーバーをティナの手からひったくった。
「俺の名前はジョン・アレッドだ。ティナをターゲットにしたことを後悔させてやる」
『おー、怖い怖い。せいぜいがんばるんだな』
 ブツッと音がして、トランシーバーの電波が切れた。ティナはエスカレーターをかけあがり、ジョンはその後ろに続く。
「バカだね、あんたも。怖かったら怖いっていいな」
 ティナは事務室のドアをあけ、中に入った。パソコンが数台おいてあり、ロッカーにはいろいろな鍵がおいてあること以外、特にかわったことはない。
「怖くはないよ。まだ、ね」
 ジョンはカウンターをくぐり、爆弾を探し始めた。時計が6時4分を差す。
「あった、これじゃないかな」
 机の下にあったジェラルミンケースをティナが引っぱり出し、ナイフを使ってこじあけた。中には小さなディスプレイとスピーカー、キーボードが入っている。爆弾本体は見あたらない。
『発見おめでとうございます。問題を聞いて答えをいれてください。失敗すると、起爆コードが入ります』
「ふうん、子供みたいな仕組みね。本体がないから解体もできないわけか」
 ナイフをポケットにしまって、ティナはつぶやいた。
『問題です。コインの表が出る確率は?』
「えーと、これは50パーセント、でいいのか?」
 ティナは両手でキーボードを叩き、確定キーに手を伸ばした。
「まって、ティナ。パーセントの綴りが違う」
 ジョンの言葉にティナが手を止める。ジョンは間違った箇所を訂正し、確定した。
『正解です。1つめのロックをはずします。次の問題は、13階、マーガレット・コーポレーションにあります』
 電子音がなり、機械は作動を停止する。点っていたランプが消えた。
「ジョン、助かったよ。スペルミスで死ぬなんて冗談にならない」
 ティナは立ち上がり、部屋を出る。この建物にはあといくつ爆弾があるのだろうか。それすらもわからない状況に一瞬恐怖を感じ、ティナは毛が逆立つのを感じた。
「ついてきて正解だったよ。死ぬときは地獄までついていくからね」
「言うじゃないか。次いくよ」
 マジシャンのことを思い出しながら、ティナはエレベーターのボタンを押した。どこか懐かしい気分が彼女によみがえる。ぎりぎりの緊張感、信頼できる仲間。まだ少年は信頼するには足りないが、ティナを勇気づけているのは確かだった。
「気合い入れないとね。よろしくたのむよ」
 ティナはジョンに手を差し出し、ジョンはその手を握った。
「まかせといて」


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