アタッカーの教習所はとても広い施設だった。野外のシューティングレンジ、地下シューティングレンジ、各種銃の取り扱いを学ぶ兵器部、人間の生体学問部、体術を習う道場に、人命救助をシミュレーションする看護部に、様々な資料を扱う図書館などがある。アタッカーを志す人間は、ここで長い間の教習を受け、厳しい訓練を受けた上で、アタッカーになれるのだ。学内には食堂や喫茶店などもあり、並みの大学を上回るほどの広さだ。
 アタッカーの免許を持っている人間が自主的に訓練しにくる分には無料だ。教官の都合があけば個人的にレッスンを受けることも可能である。ただし、施設を授業で使用している場合は利用できない。時間や日をずらすか、あきらめることになる。
「初めて来たよ、すごいなあ…」
 ジョンはロビーに置いてあった大きな銅像を見て感心したようにため息を付いた。翼を広げる鷲の銅像が、入館者をにらんでいる。アドラシスコのアタッカーのマークにもなっている鷲は、アタッカーの象徴ともなっている。ティナの持つH.Mライセンスにも鷲のシンボルが描かれている。清潔感を感じる白い壁、飾ってある様々な歴代アタッカーの写真、歩いている男性も女性も、皆まじめな顔をしている。まさにここは闘いの訓練を受ける施設だった。
 ティナは受付に行き、アタッカーのライセンスを提示した。
「爆発物教習室と地下射撃場を使いたいんだけど…」
「射撃場は降りました階段を右に曲がってすぐです。爆発物教習場は3階309号室になります。これが入館許可証です」
 受付の女性型アンドロイドは、2枚の入館許可証をティナに渡した。ティナは片方を首から下げ、もう片方をジョンの首に下げた。
「一応聞くけど、アタッカーがついていれば、アタッカーじゃない人間に簡単な教習を受けさせてもいいのよね?」
 受付はティナの言葉を聞き、深く頷いた。
「はい。ただし利用にあたり、アタッカーのライセンス情報と、その人の利用履歴が保持されますので、有事には責任をとることになります」
「わかった、ありがとう」
「どういたしまして。ごゆっくりどうぞ」
 ティナはジョンを連れてエレベーターに乗った。3階のボタンを押すと、ゆっくりとエレベーターが登っていくのを感じる。
「アタッカーってこんなところで訓練してるんだね」
「アタッカー人口は約5000人。市民の約124分の1さ。その半数以上が、このアドラシスコアタッカー教習所で教習を受けて育ってきたの。あたしもネージュもここの出身よ」
 ポーン
 エレベーターが止まり、扉がゆっくりと開いた。廊下の窓から、外で野外訓練をしている教習生が見える。
「すごいねえ…まるで軍隊だね」
「本質は変わらないさ。武装して、戦わない市民を守るのが役目だから」
 廊下を歩き、ティナは1つの部屋に入った。長テーブルがたくさん並んでいて、壁の棚には様々な形をした爆弾のダミーがおいてある。309号室、爆弾教習室だ。数人の人間が、ここで自習をしている。
「さて、一般的な爆弾はこれと、これかな」
 ティナは棚から2つのタイプの模擬爆弾を持ってきた。どちらも小型で、爆弾というよりは機械のように見える。
「どっちとも、爆弾の機構としては簡単なんだけど、この2つがほとんどの爆弾の基礎になってる。だからこれを解体して、応用することさえできれば、大抵の爆弾は解体できるはず」
「へー、すごいんだね」
 ジョンは爆弾を手にとってくるくる回してみた。透明なプラスチックの箱の中に組み上げられているので、周りから中を見ることができる。あまり難しいとも思えない仕組みだが、これが爆発すると思うと、恐ろしくもある。
「こっちのプラスチック型は、どこかに電源供給があるはず。というのも、これはただ火にかけるだけじゃ爆発しない。雷管が必要なんだ。今使われてるコンポジション・Cリファレンスタイプは、前C5タイプから改良が加えられてて、液体にも出来る。こっちの原子位相型は…」
 ティナの説明をぼんやり聞きながら、ジョンは窓の外に目をやった。夏の暑い太陽がアスファルトを照らし、陽炎が立っている。施設内は冷房が効いていて、とても涼しい。ぶら下がっている時計を見ると、すでにもう午後1時を回っている。
「聞いてんの?」
 ティナの声でジョンははっと我に返った。ティナの前には、おおかた解体された爆弾と、ドライバーなどの各種工具が置いてある。
「ご、ごめん…」
「いいさ。あんま面白くないことだし、あくびも出るだろう。でも、これをやっておけば身を守る役に立つということを覚えておいて」
 ティナのまじめな口調に、ジョンはうなだれた。こんなに自分のことを思ってくれる人間はいただろうか。親はいつも忙しく、心配してくれるといっても、家にいない方が多かった。
「よし、じゃあまた最初からやるよ」
「あ、うん…」
 ぐぅ
 ジョンの腹が情けない音を立てたのは、答えるのとほぼ同時だった。思えば2人は、少し急いでセルジオのところへ行ったので、ろくな食事を取っていなかった。
「んー…飯食ったら、再開しようか。食堂連れてってやるよ」
「うん、ごめん…」
「悪いことないさ、あたしも腹減ってるしね。これ終わったら射撃だよ。じゃあ、行こう」
 ティナは模擬爆弾を元通りに組み上げ、立ち上がる。棚に2つの爆弾を返し、部屋の外へ出た。ジョンもそれに続き、ついていった。


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