数分後。真優美は作動停止したロボットの中を覗いていた。中はすかすかだ。真ん中辺りに、ごちゃごちゃとコードのつながった基盤がある。単純な作りのようだが、腕や足には大型のモーターを使っている。見た目はがらくただが、その実は、危険物以外の何物でもない。
「パソコンと、読み込みボードがあれば、いいんだけど…」
「パソコンなんかどうするの?」
「中身を解析するんですよぅ。あたし、そういうの得意なんですよ。意外でしょう?」
 中からモーターを引きちぎる真優美。通常、店で売っているモーターより大きいものだ。アルミ缶程度の大きさはある。
「ふわー。これ、高いでしょうね〜。機械研究部ってお金持ちなんだ…」
 尻尾を振りながら、真優美がロボットを解体していく。もちろん、彼女の手元には工具などないので、外板を引きちぎり中の部品を無理矢理外すようなやり方だ。
「あ、これがブレインです」
 真優美が取り出したのは、黒いチップだった。多数足がついた、一見何をしているかわからない部品だ。
「これにプログラムを入れて、回路に組み込んで、動かすんですよぉ。なんか、機械的には強いけど、電子的には安物の回路を使ってる感じですね〜」
 さらに真優美は、ロボットの中に手を突っ込んだ。
「ただのホエホエ娘じゃなかったのね」
 そこらに散らばったねじやアルミ片を手に取り、しげしげと眺めるアリサ。彼女はあまりこういったものの知識がないようで、真優美が何をしているかすらわからない。
「見てください。これ、すごいですよ。超音波センサーと光センサー!この穴から外をセンシングするみたいです」
 真優美の手の中に、スピーカーのような形のパーツと、小さな電球のようなパーツが握られていた。ロボット本体にも、それと同じくらいの大きさの、小さな穴が空いている。
「具体的に、どのくらいすごいの?」
「目標までの距離と、位置を正確に割り出せるんです。動く物をトレースしたり。ああ、面白いなあ、一台欲しいなあ…」
 真優美は楽しそうに、解体した部品を並べ始めた。
「あんた達、何やってるの?」
 美華子が階段を昇ってきた。城山も一緒だ。申し訳なさそうな顔をしている。
「ロボットが襲ってきて…」
「ああ!僕たちが作ったロボットが!」
 アリサが口を開くと同時に、城山が悲痛な叫びをあげた。彼の見ている前で、真優美がロボットを解体していく。
「やめろ!やめてくれ!」
 慌てた城山が、真優美に横から掴みかかった。
「あん!」
 いきなり横から組みつかれ、真優美が尻餅をつく。
「何するんですかぁ!」
「それはこっちの台詞だ!ああ、ひどい…」
 剥がされたアルミ板を持って、呆然とする城山。ロボットはもう動かない。
「ひどいのはどっちですか!この子にこんなひどいことさせて、誰かがケガをしたらと、考えないんですか?」
 怒った真優美が、いつもの彼女からは想像できないような強い口調で、城山に食ってかかった。
「ぼ、僕は知らない。一体こいつが何を…」
「襲いかかってきたんだよ。壊さないと、こっちがやられるところだったんだ」
 竜馬が、怒って噛みつこうとする真優美を抑えながら言う。
「ほんっと、驚いたわ〜。機械研究部って、こんなことする部活だったの?」
「ち、違います。何か理由があるはずなんだ…」
 蔑むようなアリサの態度に、城山は小声で言い訳をした。外で雷が鳴っている。よほど強い雨のようだ。雷の音に、真優美が驚いて、目をきゅっとつむった。
「ぼ、僕、確かめてきます。こんなことあるはずがない。きっと、部長か誰かのいたずらに決まってますから」
 城山は体育館を出て、階段を駆け下りて行った。足音だけが響いている。他の生徒はどこかへ逃げたらしく、雨の音だけが体育館に響いていた。
「じゃあ俺達も避難しよう。あとは先生がなんとかして…」
「だめですよぅ!こんなひどいことする人たちを止めなくちゃ!」
 竜馬の楽観的な考えに、真優美が横やりを突っ込んだ。何か事件が起きたとき、真優美は正義感を見せて、突っ走ることがある。以前、ひったくりが老人の荷物を奪うという事件が発生したときも、真優美は正義感をあらわにしていた。
「でも、俺達に出来ることなんか…」
「あるでしょ?剣士さん?」
 おどけるように、アリサが竜馬の木刀をぽんぽんと叩いた。
「さーて、面白くなってきたわー。竜馬と3人の美少女ってわけね。まずは武器?」
 にんまりと笑うアリサ。彼女は開きっぱなしの体育用具室に足を進めた。その後に美華子と真優美が続く。
「ちょっと…」
 3人の後を追おうとして、竜馬は何かを踏みつけた。足をあげると、そこに落ちていたのは、小さな鍵だった。銀色に輝くそれには、小さなプレートがついており、プレートには「西洋弓道部」と書いてある。
「落とし物か」
 竜馬は何の気無しに、鍵を拾う。
「わーお、すごい!」
 用具室の中で、アリサが感嘆の声をあげる。竜馬が中に入って見たのは、無数のスポーツ用具だった。跳び箱やバスケットボール、バレーボール、卓球台に縄跳びの縄。一通りのグッズがそろっている。それよりも、竜馬の目を引いたのは、壁にかけられた様々な「武具」だった。
「これ、フェンシング部のだって!すごーい、レイピアなんか久しぶりに触ったわ。模造剣みたいだけど、十分よ」
 壁に掛かっていた西洋剣をアリサが手に取る。竜馬の目の前で振り下ろし、アリサはそれを掲げて見せた。
「こっちは槍、こっちには木刀…」
 興奮したアリサが、壁の武具を、一つ一つ手に取って見てまわった。真優美も美華子も、この品揃えには驚いたようで、何も言わずに壁を見ている。竜馬は、この学校がこんなに危険なものを扱っているとは、夢にも思わなかった。
「このロッカーは何かしら。開かないわね〜」
 がちゃがちゃ
 数台あるロッカーを開けようと、アリサが取っ手に手をかけるが、ロッカーの扉は開かない。先ほど拾った鍵のことを思い出した竜馬は、鍵をロッカーの一つに差し込んだ。かちゃりと音がして、ロッカーの扉が開いた。
「これは…危険物ですねぇ…」
 真優美が中に置いてあったものを取り出した。ピストルタイプのボウガンが1挺、プラスチックで出来たその身を、電灯の下に見せていた。一緒に入っている矢は、危険がないように、先に吸盤がついている。
「ふぅん…」
 美華子が興味深そうにそれを手に取った。普段の冷静な彼女とはどこか違う。竜馬は、彼女に食われそうな気がして、びくっとした。
「そう言えば、修平君はどこにいるんでしょうねえ」
 真優美の一言に、一同は修平がいないことに気が付いた。竜馬の親友で、良き理解者、さらに空気を読まないギャグを連発する修平は、いつもはこのメンバーの中に入っていた。今はどこにいるかわからない。空手と柔道をやっていた彼のことだから、ロボットにやられていることはないと思うが、少々心配だ。
「携帯の電源切ってるみたい。電話がかからない」
 携帯電話を耳に押し当てるアリサ。電話口からは、携帯電話の電源が入っていないことを知らせる、機械的な音声が流れている。
「まずは修平を捜しに行こう。話はそれからだ」
 背負った木刀の重さを感じながら、竜馬は倉庫から足を踏み出した。


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