そして現在に至る。ルールが決まり、場所が竜馬の家に決まり、清香が参加することが決まったのが、つい先ほどのことだった。
「じゃあ、ゲームを始めようか。ルールを確認しよう。一番最後まで起きていたやつが、好きなやつを一日、小間使いとして使える。複数人数はだめ。異存はないね?」
 清香が全員の顔を確認し、全員が神妙にうなずいた。
「家に連絡してない子は連絡すること。あたしら以外は、親と同居してるでしょ。準備はいい?」
 再度聞き直す。全員がまたうなずいた。
「さて、じゃあ開始。って言っても、まだ眠くない時間だろうし、全然か」
 そう言うと清香は、早速テレビをつけた。テレビのチャンネルを回すと、ちょうど時代劇が始まったところで、清香は早速見入ってしまった。時計は9時を指している。寝るには少し早い時間だ。
「つーてもなー。いつもの通りでいいんじゃないかな」
 修平が言うと、緊張した顔をしていた5人は、徐々に元に戻りはじめた。
「ですよね〜。別に危ないわけでもないし〜」
 にっこりと微笑む真優美。とても楽しそうに見える。
「とりあえず俺、皿でも洗うわ」
 竜馬が立ち上がり、台所に立つ。蛇口をひねり、水を出すと、後ろで美華子が竜馬の方を向いた。
「ここで体力使うんだね」
 ぼそりと言う彼女の言葉に、竜馬は思わず茶碗を取り落としそうになった。後ろを振り向くと、美華子がじっと竜馬を見ている。
「まさか美華子さんまで真剣にやるつもり?」
「いや、私は別にいい。ただ、約1名、やる気のある人がいるなと」
 美華子に言われて顔を向ける竜馬。そこには、目を爛々と輝かせ、竜馬の後ろ姿を見つめるアリサの姿があった。
「な、なんだよ、その顔」
「別に〜。くふふ」
 アリサの妖しい含み笑いに、竜馬は背筋が凍り付くのを感じた。彼女が何かよからぬことを考えているのは確かだ。ここで彼が感じたのは、自分だけは負けるわけにはいかないという、義務感にも似た感情だった。
「皿洗いは明日でいいか…うん、明日がいいな」
 竜馬は水を止め、居間に戻る。
「明日でいいの?くふふ、明日、お皿洗う時間なんて、あると思う?」
 意味深な台詞をアリサが言う。一同に、緊張が走った。真優美だけは何も気づいていないようで、ぼけっとしながらテレビを見ている。
「アリサ…お前、何を考えてる?何をたくらんでいる?」
 竜馬は警戒しながらアリサの方を向いた。
「何をたくらんでると思う?」
 相変わらずのアリサ。聞かずとも、何を考えているか、竜馬にはわかった。それ以上何も言わず、竜馬はアリサから離れた位置に座りなおした。
「ねえ…これ、ギャグノベルよね。なのに、安い恋愛ノベルが学園ノベルっぽくなってきてる…はっちゃけ度が足りないって、思わない?」
 アリサが少しずつ竜馬に近寄る。
「ど、どうでもいいだろ。そんなん、俺らの都合でどうにか出来るもんでもないし」
「どうでもよくない、と思わないと。くふふ…」
 妖しい微笑みのアリサ。竜馬はアリサを無視して、テレビをちらりと見る。
『うむ。やつが何か考えているのは確かなんでぃ。狙われてるし、狙われてる理由だって、簡単に想像できるんでぃ。やつがどうしたいかもな。お侍さん、今のうちに逃げた方がいいぜ』
 テレビの画面で、ちょんまげを乗せた町人が、いろりに薪をくべながら言った。自分の状況にそっくりだ、と竜馬は思った。相手が何を考えているか、何をさせたいかが、手に取るようにわかる。
 そもそも、アリサはおかしい、とも竜馬は考えた。彼女と最後にあってから、10年以上の月日が経っている。それでもまだ自分に異常なほどの愛情を持って接している。しかもその愛情は、事故をした車のように歪んでいて、いつひどい目に遭うかわからないものだ。アリサはサディストが入っている部分がある。邂逅を果たしてから既に1ヶ月。まだアリサは本性を見せていないが、ふと気が付くとアリサが暴走寸前だった、という状況が数度あった。
 普通の女の子に好かれている、という状況ならば、竜馬は喜んでその子を迎えただろう。だが、相手がアリサでは…
『やめだ、やめ。こんなん考えてもしゃあない』
 竜馬は考えることをやめ、つい先日発売の漫画雑誌に手を伸ばした。新連載と大きく名が乗っている漫画家。この漫画家も、10週間後には、いなくなっていることだろう。読み進めているうちに、物語の粗を探すような読み方になったことに、竜馬は気が付いた。顔をあげれば、他のメンバーが雑談をしている。ただ一人、美華子だけが、清香と一緒にテレビを見ていた。
 今の時刻は9時過ぎ。まだまだ夜はこれからだ。


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