次の日の昼休み。恵理香は教室で弁当を食べながら、他の友人達と話をしていた。隣に座っているのは真優美。向かいには、金髪ボブショートの地球人少女が座っている。この少女の名前は松葉美華子。アリサ、真優美と並び、恵理香と仲がいい少女だ。この少女の、鋭い物の見方と冷めた価値観は、暴走しがちなメンバーをくい止めるときに一役買っている。もう一人、砂川修平という、体格の大きな地球人少年も暴走を止める役に徹しているが、こちらはたまに傍観者に転ずることもある。何か危険がありそうなとき…例えば、面白いという理由だけで箒でトラップを作ったり、楽しそうと言う理由だけで突拍子もない企画を思いつくときなどに、ストッパーをかけてくれる美華子と修平の存在は、かなり重要だった。
「全く…うちの母親は何を考えてるんだ、一体」
 梅干しの種を弁当箱のフタに落とし、恵理香が頭を抱える。先ほどから話題になっているのは、恵理香の家に来たいとこの話だ。話題になっているというよりは、恵理香が一方的に愚痴を言っているだけのようにも見える。
「うちも、海外に親戚いますよぉ。獣人の血が入ってるならば、仕方がないんじゃないですかぁ?」
「そういう話ではない。要は父も母も、私に重要な事を知らせなかったことなんだ」
 問題を取り違えている真優美に、恵理香が不機嫌な言葉を返す。
「珍しいね。恵理香はそんなに怒る子じゃないと思ってたけど」
 最後のサンドイッチを飲み込んだ美華子が、ペットボトルを口にくわえながら、恵理香を見つめた。
「怒るよ。昨日はとてもやりづらかったんだぞ。せっかくの寿司の味もわからなかった」
「えー、お寿司食べたんですかぁ?」
 相変わらず怒りっぱなしの恵理香の言葉に、真優美が目を丸くした。とてもうらやましそうに、恵理香のことを見つめている。
「そのうち慣れるでしょ。新しい親戚を知るいい機会なんじゃない?」
 美華子が窓の外に目をやっている。グラウンドでは、熊のように大きな生き物が、他の生徒に交ざってサッカーをしている。キツネコブラという生き物だ、元は宇宙にいる生き物が、長野の山奥になぜか生息しており、さらにここにやってきて住み着いてしまった。とても知能が高い生き物で、普段は土木工事の手伝いで賃金を得ているという話だ。
「どう接すればいいものだか。夜中まで長々と話をしてみて、悪い人間ではないことがわかったが…」
「どう接したいかでしょ。それで十分仲良くなったんじゃないの?」
「そういうものか?正直、よくわからない」
 正論を言われて、恵理香が悩み込む。昨日は、寿司を食べに行った後、エキャマと長々と話をした。本当ならばクヤケンシと美幸に任せるはずだったのだが、2人はさっさと寝てしまったので、恵理香が相手をすることになったのだった。恵理香は、初めて見るいとこに戸惑って、気を使った会話しか出来なかった。エキャマはとても楽しそうだったが、恵理香はかなり疲れてしまったのだった。
「いいなあ、お寿司いいなあ…」
 真優美は寿司という言葉に食いついて離れない。彼女はとても健啖な少女で、成人男性の2倍程度の食事をとる。それだけに、彼女はとても食に対して敏感だった。
「今日は母が彼女の観光案内をしているんだ。何か気の利いたことでも出来ればいいんだが…」
 肩を落とす恵理香。家の帰るのが今から憂鬱だ。恵理香は、自分がこれほどまでに人見知りをする人間だとは、思っていなかった。
「とりあえず、お手洗いに」
 恵理香が席を立ち、教室から外に出た。昼休みだけあって、廊下はかなりの数の生徒が歩いている。
「恵理香さーん」
 横から声をかけられ、恵理香はそちらの方を向いた。竜馬が、少しそわそわした様子で立っている。
「どうした?」
「今日遊びに行っていい?久々に、ゲームで対戦とかどうかと思ってさ」
 竜馬がへへへと笑った。
「今は長期来客中なんだ。いとこが泊まりに来ててな。私が竜馬のところに行こうか?」
 イスを動かし、恵理香が竜馬に向き直った。
「あー…今日、姉貴が家に人呼ぶって言ってるもんでさ」
「そういう事情か。ならば、うちに来た方がいいな」
「うん、助かる。じゃあ、また…」
 竜馬がそそくさとその場を去った。彼の言葉遣いに、恵理香は何か腑に落ちない物を感じた。ああなったときの竜馬は、普段とは違う何かを抱えている。大抵は悩みで、恵理香に相談を持ちかけてくることが多い。今までに2、3度、今のようなことがあったため、恵理香も竜馬の心の内を測ることが出来るようになった。今日は、誰も呼ばずに竜馬を待った方がいいかも知れない。恵理香は小さくあくびをして、トイレに向かった。


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