昔々。この辺りに、巨大な国家があった。今のランドスケープ王国辺りを中心として、古代の都市があった。
その国は、魔法と機械の調和した国だった。とても発展した魔法技術と機械工学、今の世界では及びも付かないほどの技術力だった。
『え、待って?魔法文明と機械文明は、時代が違うんでしょう?』
メミカの言う通りだね。この2つの文明は、存在した時代がとてもずれていると言われているんだ。でもね、この国の過去を調べれば調べると、とても不思議なんだ。魔法も機械も存在している。どうも、片方が滅びた後、もう片方の文明により、滅びた技術が再現されたらしいんだ。どっちが先でどっちが後かは、まだわからないんだけどね。
ともかく、その文明はすごかった。その世界は、僕たちの世界とは違うんだ。便利な道具、美味しい食べ物。だが、人々は幸せに暮らしてなかった。
人間というのは、欲深い生き物なんだよ。今日のパンがあれば、明日のパンも欲しくなる。明日のパンがあれば、明後日のパンも欲しくなる。今より良いパンも食べたくなる、肉や魚も食べたくなる。溜め込むし、際限がない。
『そうだな、蓄えるのが人間だからな』
剣士君も、そう思うかい。ともあれ、その世界は、なまじ豊かな世界だったから、貧富の差も激しかったらしいんだ。持つ者と持たない者、基本的には僕たちと同じだね。
ただ、そのレベルが、僕達よりひどかっただけのこと。古代の文献によると、ある人間はミルクのプールで泳ぎ、ある人間は卵1つも手に入れられない、そんな時代だったんだよ。
事を重大に見たのは、その地方にいた、3人の神々さ。
『神々?』
そう、神々。旅人君は聞いたことがないかい?3人の星神の話を。カルバ、メースニャカ、ベルガホルカ。それぞれ、水、火、風を司る3人の神さ。神が、どういう存在なのかは、今の僕たちにはわからないし、その当時の文献にも残っていない。ただ、人間を超えた種族だったという話ではある。
その当時は、何故だか、僕らみたいに多種多様な人種はいなかった。ヒューマンだけ、それ以外の種族はどこにもいない。僕みたいな妖精や、メミカみたいなラミアもいない。その神という存在も、姿はヒューマンだったらしいよ。
3人の神は、主神に話をして、その国を請け負うことになった。そして、その国をとても平和で豊かな国にしていった。人々が努力すれば、全ての物を手に入れられる国に。人々は、皆勤勉に、努力をするようになった。もちろん、努力しない者もいたけれどね。
面白くなかったのは、それ以前にその国を任されていた神だ。3人の星神が手を出す前は、この神が全ての実権を握っていた。この国を主神から任され、発展させたと自称している神。彼は悪神と呼べるほどの神で、この国が恵まれていたにも関わらず堕落したのは彼のせいだった。気まぐれで、攻撃的で、傲り高ぶったその神は、3人の星神に取って代わられてしまった。
なんとか、元の位置に返り咲きたい彼は、3人の星神に話をした。主神はお前達の実力を買ってこの国を任せたわけではないのだと。この国は、私が手を出す事もできないほど堕落しきっていた国、お前達を疎んでいた主神が、お前達を辺境へ送りこんだのだと。
『嘘に決まってるじゃない、そんなの』
そうだね。3人の星神だって、バカではない。メミカの言う通り、嘘だとはわかっていたはずなんだ。ところがね、その国で、とても大きな事件が起こった。
『事件?』
ああ。いくら神が介入したとは言え、まだ良い方へ直りきっていない国だった。多くの兵器と魔法のぶつかる、内戦が勃発したんだよ。慌てたのは、3人の神々だ。自分たちの民が、いきなり殺し合いを始めたんだから、たまったもんじゃあない。彼らは八方手を尽くしたが、残念なことに戦争は20年ほど続き、国土の4割程度が廃墟と化し、人口も激減してしまった。
3人の星神が、どんな気持ちだったか、想像はするのは容易い。そこで、彼らに疑問が芽生えた。自分たちは、本当にどうしようもない国に、尻拭いに向かわされたんじゃないかと。自分たちが、この国を思って立候補したのを、良いように使われたんじゃないかと。
事の真相を確かめたい3人だけど、実際に主神に話をしにはいけない。自分たちが不満を持っているということが、主神にわかってしまうからね。主神は、尊敬と共に畏怖の対象だったんだ。粛正を恐れた3人は、二の足を踏んだわけさ。
ここで、元ここにいた神が、3人をさらにけしかけた。これ以上、自分たちのことをないがしろにされていいのかと。主神は、人を導けなかったお前達を罰するつもりだ。ここで手を出さねば、お前達はどんな酷い目に遭うかわからないって。
3人の星神は、それぞれ追いつめられ、心に悪意が芽生えた。そして、そそのかされるままに、主神に決闘を挑んだ。そのとき主神は、3人の星神と戦った末に3人を封印してしまう。
『それが、俺の持っている指輪に?』
この時点では、指輪にはなっていなかったらしいけど、どんな風に封印されていたのか、今ではわからない。この国は、元いた神が、また取り仕切ることになった。
ところが、だよ。彼は前のように手を抜くだけではなく、今度は人々を攻撃し始めた。国の民は戦争もしたけれど、3人の星神の導きを、きちんと守っていたんだ。それが、どうも気に入らなかったらしい。人々の間にこの神が絶対であるという信仰を刷り込み、逆らう人間には雷を落とした。とんでもない話だよ。
『自分勝手な奴だな。神の風上にも置けない』
主神だって、これを黙っては見ていない。この国がまた悪い方向へ向かっていることを知り、この神をまた外そうとした。だが、悪の信仰で得た人々の信仰心が、彼に力を与えた。彼は悪神として、主神に攻撃を加えた。
さすがの主神も、かなり手を焼いた。悪神は信仰のせいで、主神と同じくらいの、強大な力を持ってしまったらしい。主神が倒されかけたその時、3人の星神の封印が解けた。
星神達は、主神が窮地に陥っていることを知り、自分たちが間違っていたのだということを知った。彼らは、主神にとどめを刺そうとするその悪神の元へと行き、せめてもの償いにと、自分たちの命と引き替えに悪神を封じ込めたんだ。封印は不完全なもので、3人の星神の魂は、よりどころのないふわふわしたものになった。
主神は、悪神が蘇ることのないよう、3人の星神の魂をそれぞれ指輪に宿した。でもこれだけでは、3つの指輪が集まったら、また悪神が蘇ってしまう。そこで、指輪の力の9割をそれぞれ吸い取り、1つの器に封じ込め、保険としたんだ。その、器というのが…。
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