「うっ…」
意識が、痛みの中、戻ってきた。きーん、という耳鳴りがする。腕や足が、思うように動かない。暗闇の中、横たわっている少年は、犬獣人の旅人、バルハルト。全身に走る激痛は、彼にこれ以上の気絶を許さず、意識を覚醒させる。
「どう、なった、んだ」
うつぶせに倒れているらしい。左腕が埋もれている。右腕を地面に置き、立ち上がろうと試みる。
がつんっ!
「いだっ!」
腕を立て、頭を持ち上げたところで、何かに頭がぶつかった。疑問符を浮かべながら、バルが土から腕を抜いた。仰向けになり、手を伸ばす。すぐ近くに、岩と土の壁があるせいで、これ以上起きあがれないらしい。よくよく、地面を撫でてみれば、こちらも岩と土だ。整地された床などとは違い、とてもボコボコしている。自分は緩やかな傾斜に、頭を下に向けて、斜め気味に倒れているようだ。
「明かりは、ないかな」
手を伸ばし、周りを漁るバル。手の先が何か、硬くてつるつるしたものに触れる。持ち上げ、その何かをなで回すバル。薄べったくて曲がっている何かの破片で、縁がギザギザになっている。鼻の近くへと、それを持っていくと、燃料油と煤の臭いがした。どうも、これはバルの持っていたカンテラの、なれの果てらしい。
他に何か無いか、と探す。剣とナイフが、体にくくりつけられたまま。鞄は、少し離れたところに転がっていた。鞄を手でたぐり寄せる。鞄が支えていた石が落ち、がらんと音を立てた。
「いっ!いったぁ…」
暗闇の中から、女声が響いた。その声には聞き覚えがある。
「メミカさん?」
バルが、知り合いのラミア女性の名を呼んだ。
「あ、あ…バル君?」
がらがらした声で、女性が返事をした。声の感じからするに、すぐ近くにいるらしい。
「メミカさん、無事かい?意識は?」
「今目覚めたばっかりだし、あんまり…尻尾と右腕が、何かに挟まれてる…」
「わかった。とりあえず、どっちにメミカさんがいるかも、よくわからない。今、鞄からマッチを出すよ」
鞄を開き、中身を探るバル。マッチの箱を取り、火をつける。
しゅっ
「わあ!」
バルは悲鳴をあげた。目の前の土壁に、頭蓋骨が埋もれていたからだ。
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない」
メミカに聞かれ、バルはとっさに返事をした。だんだんと、さっきまでの記憶が戻ってくる。また、「奴」に逃げられたのだ。
ここは確か、砂漠の中に存在する、ポイザンソという遺跡のはずだ。今いるこの場所は、遺跡が土砂に埋もれた後の、空洞のはず。ちょうど、遺跡内にあった墓地の辺りだ。
ここに来たのは、ニウベルグという召還士を追ってだ。ニウベルグは、バルと少なからず因縁のある男で、彼には用が3つある。
1つは、メミカの育ての親、ライアのことである。ニウベルグは過去、ライアと何かあったらしく、ライアのことを酷く憎んでいる。ついこの間、ニウベルグは放火を行い、ライアをそれの犯人に仕立て上げた。その時にはなんとか無罪になり、事なきを得たのだが、それ以来メミカはニウベルグのことを追っている。
もう1つは、力を秘めた指輪だ。この地方には、3人の星神の伝説が残っている。それらの星神の力が込められたという指輪を、バルは偶然手に入れたのだが、それをニウベルグが狙っているのだ。何のためにかはわからない。だが、真っ当なことのために使うとは到底思えない。3つあるという指輪の内、1つをニウベルグが、1つをバルが持っている。彼から取り戻さなければいけないのだ。
そして最後。この遺跡、ポイザンソには、多数の死者が埋葬されている。その幽霊達が、遺跡の侵入者を追い出してくれと、バル達に懇願してきたのだ。その侵入者こそ、紛れもないニウベルグである。どうやら彼は、遺跡の中にいた害も罪もない幽霊を、攻撃していたらしい。
バルとメミカは、4人からなるパーティでニウベルグを追った。彼は、仲間の獣人男と共に、この遺跡で何かを探している途中だったが、バル達が現れるやいなや、遺跡を破壊して逃げたのだ。しかもニウベルグと共にいた獣人男は、このランドスケープ王国の王子だという話らしい。いよいよ、話が入り組んできた。
「メミカさん、そっちかい?」
ぎゅう
メミカがいるとおぼしき方向に手を入れる。だが、そちらは外れのようだ。
「こっちじゃないか」
力を込め、挟まっている腕を抜くバル。からからと、石が転がる音がした。
「あ、あ、消えてしまう」
マッチの火が消えそうになっている。何か、火をつけておくものはないか、鞄に手を入れるバル。そこにあったのは、昼間ここへ来るときに日よけに使っていた布とカンテラの油の瓶だった。瓶の中に、細く切り裂いた布を入れ、芯を作る。そして、それに火を付けると、簡単なランプになった。
「明るくなったね」
土の下に、半ば埋もれた形のメミカが、ようやく見えるようになった。狭い隙間に、上半身だけが出ている。メミカの頭側に、広くなっているスペースがある。バルは、そこまでずるずると這っていき、立ち上がった。
「メミカさん、今助けるからね」
腰のナイフをシャベル代わりに、バルが土を掘り始める。土は軟らかく、簡単に掘れた。
「うう、顔に土がかかるんだけど…」
「我慢だよ。今、尻尾を引っぱり出すから」
なんとか、少しずつ掘り進め、隙間を作ったバルは、メミカの手を取った。
「んっ!」
まるで、カブでも引き抜くときのように力を入れるバル。メミカの体が、ずるりと半抜けになる。そこからは、メミカの力だけで大丈夫なようだ。彼女は壁に手をかけ、最後まで抜け出した。
「ああ、助かったわ。ありがとう」
ぱんぱんと泥を払い、メミカが息をついた。
「怪我は?」
「ううん、ないわ。ローブが汚れちゃったくらいかしら」
くるりと回るメミカ。彼女が着ていたのは、とても白いローブだったはずだが、今はすっかり砂色に染まってしまっている。
「ふうう。それぐらいで済んでよかったよ」
地面に座り込むバル。よくよく周りを見回せば、それなりに大きい空洞だ。天井まではバル2人分、縦横は10歩分と言ったところか。偶然、この形になったのだろうか。
『いや…』
何かがおかしい。ここは、崩落で出来たの空洞ではない。どうやら元より、ここには部屋があった様子だ。土の中から、壁と床が顔を見せている。だが、出口のようなものはない。
「地下室、かなあ。なんか、ちゃんとした形をしてるね」
メミカも同じ感想を持ったようだ。露出している壁面に、拳をこんこんとぶつける。
「リキルとバスァレはどうなったんだろう」
パーティを組んでいた仲間のことが心配だ。リキルは、猫獣人と人間のハーフの少年だ。黒い髪、細身で、剣士をしている。バスァレは、成り行きでパーティを組むことになった、妖精の青年だ。緑色の髪、一見子供と見まごうほどの小さな体、魔法とナイフを操って戦う。2人も、一緒に埋もれたはずだが…。
「ねえ、バル君。私たちが埋もれてたこっち。ちっちゃい隙間が、どっかに繋がってるよ」
さっきの隙間を指さすメミカ。即席ランプを近づけると、メミカの言う通り、奥へと穴が続いている。覗いてみれば、そう遠くないところで、また広い空間に通じている。今バル達がいるこの部屋と、もしかして繋がっていたのではなかろうか。
「行ってみよう」
四つん這いになり、バルが隙間に頭を突っ込んだ。四つん這いで進めるのは少しだけで、すぐに腹這いになる。鞄の紐を首にかけ、剣が引っかからないように上手く操りながら、バルが先に進む。
「ふううう」
ずざっ
間もなく、バルは隣の部屋へと出た。隣の部屋も、さっきと同じくらいの大きさだ。唯一違うのは、扉があることだろうか。扉はひしゃげて、奥には大量の土砂が詰まっている。あそこから外に出るのは無理そうだ。
「あ!」
部屋の端に、リキルが倒れている。バルはリキルに駆け寄り、軽く揺さぶった。
「リキル君?」
「う、うう…」
メミカの呼びかけに、リキルが反応した。呻きながら起きあがり、あぐらをかく。
「なん、だ。ここは。僕は生きているのか?」
頭をがしがしと掻くリキル。泥の欠片が床に落ちる。
「ああ。俺らも無事だよ。後は、バスァレだけだ」
リキルの手を取り、立ち上がらせるバル。移動出来るのは、さっきの部屋とこちらの部屋の2つ。扉の向こう側は、土砂がたっぷりと詰まっているし、扉自体がひしゃげているので開くことが出来ない。生き埋めになるよりはマシだが、外に出られない状況だということに変わりはない。
「盾が壊れてしまった。また新しい物を手に入れないと」
リキルの丸い盾は、真ん中でへこみ、使い物にならなくなっている。ヒビも入っているようだ。
「えーと、その。さっきは、恥ずかしいところ、見られちゃったね」
こほん、とメミカが咳をする。
「さっき?なんだっけ…」
「えーと。師匠、とか叫んだり。うん、ちょっとみっともなかったかも」
メミカに言われ、バルは思い出した。遺跡が崩れる寸前、彼女は取り乱していたのだ。
「なに、あれで普通だよ。僕も、泣きそうになった」
リキルがふふふと笑った。
「絶望的な状況に、変わりはないけど、生きているだけでもまあよし。出口を探そう」
土壁へと向かうバル。土を掘れば、向こう側に扉や通路があるかも知れない。ナイフを使い、土を掘る。
ぬう
「?」
何か、土の中から顔を出した。青白い、人型の何か…。
「いきてた?」
「わあああああああああ!」
その何かに声をかけられ、バルは驚いて尻餅をついた。その何かは、ずるりと壁の中から抜け落ち、ふわりと浮かんだ。
「君は、この遺跡に埋葬されていた、幽霊じゃないか」
リキルが驚きの声をあげる。目の前にいるこの物体は、墓に埋葬されていた子供の幽霊だ。他の幽霊達は、発声することが出来ないのだが、この個体だけは声を出すことが出来る。
「よかった。おはか、こわれたから、みんなでようすを、みにきたの」
虚空に向かって手を振る子供幽霊。間もなくして、壁の中から、無数の幽霊が現れた。
「う…敵意はないってわかってても、怖いものね」
メミカが眉をハの字にして、怯えた顔をした。
「ごめんなさい。俺達、役に立てなかったよ…」
「いいの。ほっといても、いつかは、こわれる、ものだから。ぼくたちの、おはかのために、たたかってくれて、ありがとう」
謝るバルを、子供幽霊が慰める。周りにいた幽霊達も、気にするなというようなジェスチャーをした。遺跡自体は壊れたが、彼らを束縛する魔法は、まだ消えていないようだ。
「それより、こっち。うもれているけど、つうろが、あるよ。ひとが、たおれてる、みたい」
土壁の方へと、子供幽霊が行った。出口は1つではなかったらしい。
「人が…きっとバスァレだね。合流しよう」
「そうだな、まずは穴を掘ろう」
バルはナイフを、リキルは壊れた盾、そしてメミカは槍をシャベル代わりにして、穴を掘り始める。
ざくっ、ざくっ
土は軟らかく、掘りやすい。だが、たまに、土の中に別の物が混ざっていることもある。骨、機械の欠片、鉄の塊、ひん曲がった金属の棒など。バルは、それらがナイフに当たるたび、丁寧にそれらをどかした。
「まさか、こんなところまで来て、穴掘りをするはめになるなんてな」
ざくっ
盾を壁に突っ込み、リキルが笑った。
「ええ。まるで、モグラみたい」
メミカも一緒になって笑う。
「このさきの、つうろをぬけると、さばくのまんなかに、でるよ。すこし、きたにもどれば、ポイザンソのまちに、もどれるよ」
どうやらこちらは、非常口か、別の入り口かだったようだ。外に出られると言うなら大歓迎だ。そんなに食料もないのだし、早いところジャンバルの街へと戻る必要がある。
「よっ」
がらがらがら!
バルが最後にナイフを差し込むと、土壁が音を立てて崩れ、その先に暗い通路が姿を見せた。簡易ランプを持ち、バルがその先へ向かう。
「バル、ナイフが刃こぼれしてしまったようだな」
バルのナイフを取り、歯の付き具合を確かめるリキル。このナイフは、重量で物を切るような武器ではなく、切れ味で切る武器である。刃が無くなっては、ただの鉄板だ。街へ戻って一息ついたら、研がなければならないだろう。
「敵が出るかも知れないわ。油断しないように行かないと」
槍を構え、ゆっくりとメミカが進む。
「もう、だいじょうぶ、だよ。にんぎょうは、みんな、うごかなくなったし、ねこは、みんな、きえちゃった」
そのメミカの前に、子供幽霊が立った。メミカはほっとしたように槍を背負い直す。通路は真っ直ぐに延びており、迷うこともなさそうだ。
「あ!」
バルは少し先に、何かが転がっていることに気が付いた。土に半分埋もれた、子供のような体格の人型。あれは、バスァレだ。天井に、穴が開いている、あそこからこの通路に落ちて来たのだろう。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
倒れているバスァレを抱き起こし、リキルが軽く揺さぶる。
「っ…!」
バスァレの顔が、一瞬歪み、それから彼はうっすらと目を開けた。
「なんだ、剣士君じゃないか…」
リキルの腕から離れ、バスァレが立ち上がる。そして、大きく伸びをした。
「いやぁ、死ぬかと思ったよ。全く、生きていると言うのはいいものだねえ。気絶している間に、魔力も戻ったようだ、全快さ。君たちも、無事で良かった。ここはどこだい?」
体についた泥を払い、バスァレが笑う。呪文を唱えると、彼の体は、満月のごとき明るさで光り始めた。
「さっきの遺跡の一部よ。ここは、出口に通じている通路らしいわ」
「おや、それはそれは。出口があって、本当によかった」
通路の奥を指さすメミカに、バスァレがそちらを向いた。
「それで、この人達が、この遺跡に眠っていた幽霊というわけかい。初めまして」
幽霊の団体に向かって、バスァレが大仰な礼をした。まるで貴族相手にするかのような礼に、幽霊がざわつく。
「さて、バスァレも見つかったことだし、外に向かおう。今は、何時ぐらいなんだろう」
バルが前に向かって歩き始めた。リキル、メミカも続く。バスァレもそれに続こうとして、蹴躓いてしゃがみ込んだ。
「済まない、旅人君。僕は足を怪我してしまったようだ。先に行っていてくれないか?治療してすぐに追おう」
バスァレの右足が、軽く捻挫しているようだ。手を当て、治癒の魔法を使うバスァレだったが、すぐには治らないらしい。
「うーん。じゃあ、ここで小休止にしようか。君を置いてはいけないよ」
適当なところに鞄を置き、バルが座り込んだ。
「そうだな。少し休もう」
リキルも床に座る。メミカは、どうするか少し悩んだ後、蛇の尻尾でとぐろを巻いて座った。
ぐう
「あ」
バルの腹が鳴った。どれだけの時間、気絶していたかわからないが、すっかり空腹になってしまった。
「お腹空いたね。何かないかなあ」
メミカがローブのポケットを漁る。出てきたのは、水が半分ほど入っているボトルだった。透明な、柔らかい素材で出来ている。なんでも、錬金術師が開発した新素材だという話だ。
「うーん」
バルも、鞄に手を入れる。リキルも、腰に付けていた袋を開いた。バルの鞄の中には、大きめの固パンが1つと、リンゴが3つ、後は水のボトルとコップが3つ。リキルの袋の中には、乾燥野菜や干し肉などの携帯食料が、小さな袋にいっぱいあった。
「そうだった、サンドイッチを買って、携帯食料を少しにしたんだった」
ぼんやりと呟くバル。元より、早めに帰るつもりだったのだ、食料もあまり用意はしてきていない。これだけでは食事と言うには物足りない。
「外に出るまで我慢か…」
「それには及ばないよ」
「うん?」
ぽつりと呟いたリキルに、バスァレが意味深な笑みを見せた。
「んっ」
彼は、胸の前で、祈るように手を組んだ。その手を、ぐぐっと膨らまし、もう一度ぎゅっと握る。すると、手の間から、まるで今生成されたかのように、缶詰が現れた。
「うわ、すごいなあ」
上等な手品みたいだ、とバルが感心した。3人と幽霊が見ている前で、バスァレは同じ要領で、缶詰を4つ出した。
「食事にしようか」
各人に缶詰を配るバスァレ。バルはそれを受け取り、じっと見つめた。と、バスァレが今度はフォークを取りだし、全員に渡す。
「すごーい!どういう仕組みなの?」
「僕ほどの魔法使いになるとね、異空間に物を置いておく倉庫を造れるんだよ」
質問をしたメミカに、バスァレが原理を説明した。そんな魔法のこと、バルは聞いたことすらない。かといって、バスァレの着ている服には、これだけの缶詰が入る場所はない。持ち物も、腰に下げている短剣ぐらいで、大きな袋などはない。本当に魔法なのかも知れない。
「こっちも配ろう」
簡易ランプを床に置き、ナイフを手に取る。パンを切り分けようとして、バルはためらった。泥だらけのナイフでパンを切りたくはない。考えた後、バルはフォークを突き立て、固いパンを4つに割り、それぞれに渡した。
「じゃあ、早速…」
ぱかっ
缶詰を開け、バルがフォークを持つ。中身は、野菜と肉の煮込み料理のようだ。フォークでかき混ぜ、肉を口に入れる。保存食とは思えないほどの美味さだ。かなり高価なものではないのだろうか。それを惜しげもなく振る舞うとは、バスァレは実は裕福なのだろうか。
「いいなあ」
「あなたも食べる?」
「からだが、ないから、もう、たべられないの」
羨ましそうにしている子供幽霊に、フォークを差し出すメミカ。子供幽霊は、それを受け取らず、首を横に振った。
「あとは、いっぽんみち。ぼくたちは、いなくなるね」
子供幽霊が、すうっと宙を舞う。
「いなくなる?どうするつもりだ?」
「ちかに、ねむるの。もう、だれもはいってこない、とてもあんぜんだよ」
ふわふわと浮かぶ子供幽霊。この暗い地下で、彼はこれからどうするつもりなのだろうか。
「うん、わかった。元気でね」
気になったバルだったが、とりあえずは彼らを送り出すこととした。きっと彼らにも、何かの役目があるのだ。
「ありがとう…」
深々と礼をする子供幽霊。後ろの幽霊達が、同じように礼をした。そして、幽霊達は床に向かって染み込んでいった。先ほどまで賑やかだったのが、とても寂しくなってしまった。幽霊でも、いるといないでは違うのだろう。
「さて…タイミング的に、ちょうどいいか」
かたん
缶詰を床に置き、バスァレがあくびをした。
「食べながらでいい。さっき、旅人君に聞かれた話を、今しようか。いいかい?」
各々の顔を見るバスァレ。誰も、何も言わない。バルがバスァレに聞いたのは、ニウベルグがここにいた理由だ。バスァレは、王子であるロビンとニウベルグが、なぜ連んでここにいたのかを、知っているはずである。
「…返事がないのは、肯定と見るよ。じゃあ、話そうか。昔話から入ろう。長いかも知れないけど、全部一繋ぎになっている話さ」
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