そのころ、バルとメミカは、遺跡の中でも一番深いであろう部分まで降りてきていた。長い螺旋階段を下り、2人は豪華な装飾のされた扉を開けた。
「広い…」
そこには広いホールが広がっていた。天井も高いし、部屋自体も広い。集団球技をする競技場より広いだろう。壁から出る光も、上の方の階より強く、部屋の中は光に満ちていた。ホール内はうっすらと寒い。
「あっちにも扉がある」
ライアが、向かい側の壁を指さした。そちらにも、同じような装飾の扉がある。2人は、そちらへ向かって歩き始めた。
「この遺跡、かなり広かったんだね。山の中に埋め込まれてるような感じなのかな」
足下の石を避け、バルが足を踏み出した。
「私もこんなに広いとは思わなかった。誰もここに入ったことのある人はいなかったもの」
「前人未踏の神秘的な遺跡か。魔物もかなり多い」
「うん。あの魔物達、どうやって入ってきたんだろう。もしかして、古代人が飼ってたとか?」
「その可能性はある。魔物は元々、兵器として作られた存在だと、聞いたことがあるよ」
「そっか…」
兵器という語句に、メミカが顔を曇らせる。
「私、武器として生まれてこなくてよかった。誰かを打ち倒すだけの人生なんて、想像出来ないもの」
俯いて、メミカが考え込む。その横顔を、バルはちらりと見て、視線を戻した。扉の前まで来たバルは、扉に手を当てた。
ギイイイイイイ
きしみながら開く扉。その先にあったのは祭壇だった。右と左には燭台があり、祭壇の上には皿などが置かれている。そして、祭壇の上側の壁には、火炎とその上に立つ男性の壁画があった。
「祭壇ね。行き止まりみたい」
部屋のぐるりを見回し、メミカが言った。ここに来るまでに、全ての部屋をチェックしてきたのだ。結局どこにもニウベルグはいなかった。ここまで苦労したのに、とでも言いたげな顔で、メミカはため息をついた。
「こんな場所を、カルバの遺跡の中で見たことがある。たぶんこの辺りに…」
祭壇の前に立つバル。彼の予想した通り、中央には円形のくぼみがあった。くぼみの真ん中に、小さく円形に切り込みがある。カルバの遺跡と、まるで同じだ。
「メミカさん、その腕輪をくれないかい?」
「え?」
突然言われ、メミカが自分のしている腕輪を見つめる。
「その腕輪は無くしてもいい物?もしかして、大事なものだったりする?」
「王国の雑貨屋で200クレジットで売っていたの。別に無くてもいいけど…これがどうしたの?」
「いいからいいから。ほら、貸して」
バルが手を出した。戸惑いながらも、メミカがバルに腕輪を渡す。祭壇の中央のくぼみに、バルは腕輪をはめた。かちゃりと音がして、腕輪がしっかりとはまる。
ゴゴゴゴゴ…
「え、何?」
メミカが目を丸くした。祭壇の穴の、中央の切れ込みが持ち上がり、円柱がずずずと上がってきた。ガラスで出来た円柱の中には、赤い金属で出来た指輪が収められていた。バルは蓋を外し、その指輪を手に取った。
「メースニャカの指輪だよ。とんでもない力があるらしい。メミカさんの着けていた腕輪は、この指輪を取り出す鍵だったんだ」
「そうだったの…知らなかった…どうしてそのことを?」
「カルバの遺跡でも、同じ仕組みで指輪を手に入れてね。ほら、これはメミカさんに。あなたの腕輪を使って手に入れたわけだから」
バルの差し出した指輪を、メミカが手に取った。
「似合う?」
人差し指に指輪をはめ、メミカが笑う。
「ああ、とても」
バルも連られて笑った。メミカは指輪をしばらく眺めていたが、それを外し、バルに返した。
「本当にすごい魔力。カルバの指輪と一緒にしていた方がいいと思う」
「いいのかい?メミカさんの腕輪で手に入れたんだし、メミカさんが持っていても…」
「ううん。私、指輪ってガラじゃないしさ」
バルの問いに、メミカがからからと笑った。
「…」
唐突に、バルが黙り込んだ。カルバの遺跡の時には、指輪を取った途端に、地響きが鳴り響いて大型魔物が現れた。ここでもそうならないという保証はない。
「どうしたの?」
メミカが心配そうにバルの顔を覗き込んだ。
「いや…なんでもない。戻ろうか」
ふうと息をつき、バルが返事をした。1度危ないことがあったからと言って、2度3度と同じことが起きる証拠にはならないはずだ。バルは、入ってきた扉を開いた。
「臭い遺跡だ。ここが最下層か…」
誰かの声がする。聞き覚えのある声だ。向こうの扉付近に、誰かがいる…。
「あー!」
メミカが大声を出した。相手が誰だかを認識し、バルも大声をあげそうになった。そこにいたのは、今探している召還士、ニウベルグだった。
「貴様、よくも師匠を!村長屋敷に火を付けて、その罪を師匠に被せるなんて!」
槍を出し、相手に向けるメミカ。その目には、怒りと殺意が満ちあふれていた。
「お前、アネットの弟子か」
ニウベルグが、数歩前に出る。アネットという名前に、バルは聞き覚えがなかった。それはメミカも同じことのようで、とまどったように尻尾が揺れた。
「名前はメミカ。年は18。魔法使いライアの弟子として子として、メイゥギウ村で育つ」
「そこまで私のことを調べて、どうするつもり?」
「どうするつもりない。もう目的は果たした、お前に用はない」
にやりと笑うニウベルグ。悪魔的、という言葉がよく似合う。バルは、知り合いの悪魔人女性、エミーのことを思い出した。エミーは悪魔人といいながら、悪の性質の全くない女性だった。対象的に、目の前に立つ召還士は、悪意の波動に満ちている。
「残念ね。師匠はすぐに監獄を出て来るわ。あんたの計画は失敗よ。さあ、おとなしく投降しなさい!」
ぶうん!
メミカの槍が空気を切り裂いた。かまいたちでも起きるのではないかという勢いだ。
「出てくるところまで含めて計画通りさ」
ニウベルグがいやらしい笑みを浮かべる。
「お前、ライアさんに何かしたのか?」
バルも剣を抜き放ち、ニウベルグに向けた。
「あいつには何もしちゃいない。ただ、すこぅし村人に細工をさせてもらった」
「細工?どんな細工をしたって言うんだ」
バルは、心の中で焦っていた。今、この男の相手をしている場合ではない気がする。村で何かが起きている。すぐに戻らないと、取り返しのつかないことになるような。
「答えなさい!」
ぼぉぅ!
メミカが右手を軽く引き、ニウベルグに向かって突きだした。手のひらから火球が出て、ニウベルグに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
「怖い怖い。アネットの弟子は直情型か」
ばしぃっ!
ニウベルグが火球を殴ると、まるで元から無かったかのように、火球はかき消えた。魔法による攻撃は、魔法によって抗うことが出来る。そのことを、バルは久しく忘れていた。
「さっきからあんた、アネットって言う名前を口に出してるけど、それって師匠のこと?」
じりじりとメミカが近づく。
「そうだ。お前の師匠であるアネット…この村ではライアだったな。あいつと俺は傭兵団で知り合った仲さ」
「なんで師匠を恨むの?」
「お前がそれを知ってどうする?」
話にならない。ニウベルグは、この不毛な会話を楽しんでいるような節さえ見られる。こちらにいるのは、若い旅人と魔法使い見習いだけ。向こうの方が年を食っている分、数枚上手だ。これ以上有効な情報を手に入れることは無理そうだ。
「そうそう。村人にした細工の話だったな。村人の一部に、アネットが危険な人物だと言う暗示をかけておいた。あいつが出てきたとたん、八つ裂きだろうさ」
バルの予感は的中した。ライアは今、危険な状況下に置かれている。そして恐らく、それを知らないだろう。
「早く地上に出ないと、ライアさんが危ない!」
「わかってる!このままこいつを捕まえて、地上まで急ぐわよ!」
槍を構え、ライアがダッシュした。ニウベルグは一歩下がり、跪いて床に手を触れた。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「う、うわあ!」
山全体が揺れるかのような、大きな地響きが鳴り響いた。目の前に、緑色で、半魚人のような姿の魔物が現れた。手や足には水掻きがあり、頭の上から尻まで背鰭がついている。最初は小石のような大きさだったのが、いきなり膨張し、ついにはバルが5人は集まらないと腹周りを計れないような大きさにまで成長した。
「お前らを行かせたら、上での面白いショーも見られなくなる。こいつは、この神殿に封印されていた魔物らしい。さっきから気配を感じてたが、これほどでかいとはな。相手してやれ」
半魚人はしばらく口をむにゃむにゃとしていたが、目の前にいるバルとメミカが敵であることに気が付き、ぎょろりと目を開けた。
「グエエエエエエエエ!」
半魚人が雄叫びをあげた。同時に、腐った泥水のような臭いがたちこめた。毒沼のような嫌な臭いに、バルは思わず鼻を押さえた。
「さーて、見物させてもらうとするか」
ニウベルグが大きく飛び上がった。そして、天井付近に出っ張っていたオブジェの上に乗り、下を見下ろすように座った。
「何よ、こいつ…こんな大きいの、勝てるの?」
メミカが一歩後ろに下がった。怯え気味の彼女は、槍を握る手にも力がない。
「どっちにしろ、戦わなくちゃ。そして、勝つんだ」
勇気づけるその言葉は、メミカのためだけではない。自分自身を奮い立たせるためでもある。バルは剣を振りかぶり、突進した。
ずがっ!
「グエエエ!」
剣は半魚人の足に食い込んだ。この手応えだったら、かなりのダメージを与えただろう。剣を抜き、後ろに下がる。
「え?」
剣が当たったその部分は、斬れるどころか傷がついているようにも見えなかった。
「くそっ!」
剣を振り、何度も相手を斬りつけるバル。斬っているうちに、からくりに気が付いた。この魔物の体は、ゴムのような皮膚で覆われている。バルの剣は、切れ味よりは重さで相手を押し切る歩兵剣。この相手には、あまり有効な武器ではない。しっかりとした剣の使い方が出来れば、まだ歯も立つはずなのだが。
『戻ったら、リキルに剣を習わないとな』
知り合いの半猫獣人の剣士、リキルの名を思い浮かべ、バルが剣を振る。今のバルでは、何度斬ったところで結果は同じだ。
「グエッ、グエッ!」
ばしぃん!
「ぐっふぁ!」
半魚人の平手が、バルを跳ね飛ばした。バルは剣を手から離し、ごろごろと転がった。どすん、と大きな足音が響く。すぐに反撃しなければ、やられてしまうだろう。バルは腰のナイフを握り、匍匐前進しながら抜き放った。
「…?」
いない。前に半魚人が見あたらない。
「バル君、上!」
叫ばれて、バルはとっさに上を見上げた。宙高く飛び上がった半魚人が落ちてくる。
どすぅん!
「ぐああああ!」
全身に、半魚人の体重が一気にかかり、バルは叫び声をあげた。さっきの音は、足音ではなかった。この半魚人が飛び上がった時の音だったのだ。
「このぉ!」
どすっ!
半魚人の背中に、メミカが槍を突き立てた。鋭い穂先は、ゴムのような皮膚を少しは貫通出来ているようで、半魚人が苦しそうに呻く。その隙に、バルは立ち上がった。全身、痛いところだらけだ。もしかしたら、骨が折れているかも知れない。
「グエエエ!」
半魚人がメミカの方を向き、大きく口を開けた。べろん、と長くぬめった紫色の舌が伸びる。ライアの髪のような美しい紫ではない。質感も相まって毒々しい色に見える。その舌は、真っ直ぐにメミカの方へ伸びた。
ぐるん!
「きゃあ!な、なにこれ!?」
舌がメミカを捕らえた。メミカが槍を取り落とす。あっという間もなく、メミカはその半魚人の口に、ぱくりとくわえ込まれてしまった。まるでカエルが獲物を飲むかのようだ。メミカの赤い蛇尻尾だけが、半魚人の口から出ている。
「あああ!いやあああ!」
半魚人の口の中から、メミカの悲鳴が聞こえる。
「くそっ、こいつ!メミカさんを吐き出せ!」
ざくっ!ざくぅっ!
痛む体に鞭打ち、バルはナイフで何度も斬りつけた。だが、ナイフは薄皮を裂くだけで、肉まで切り裂くことは出来ない。そうこうしている間にも、メミカの尻尾はどんどん半魚人の口の中に入っていく。
「吐き出せって言ってんだろぉ!」
足下に落ちていた、メミカの槍を拾ったバルは、それを渾身の力で半魚人に突き立てた。穂先は、ずぶりと半魚人の足に刺さった。
「グエエエエエ!」
半魚人が痛みに咆吼をあげる。その反動で、メミカは口から吐き出された。べしゃりと音がして、ぬるぬるにまみれたメミカが床に落ちる。
「メミカさん!大丈夫?」
ぐったりしているメミカにバルが声をかけた。
「大丈夫、でもない、かな。すごい臭い…吐きそう…」
ゆらりと起きあがり、メミカが口を押さえる。半魚人は、足に刺さった槍を、その水掻きのついた手で無造作に握り、抜き捨てた。どろっとした体液が、穴から溢れる。
「うはははは、がんばるねえ。すぐ食われちまうかと思ったが、こいつは面白い見せ物だ」
上から声が振ってくる。ニウベルグが、手をぱんぱんと鳴らし、笑い声をあげていた。
「どこまでも腐ったやつだな…」
手に持ったナイフを投げつけてやろうかと、バルは一瞬悩んだが、ニウベルグのところまで飛ばせる自信がないのでやめた。怒りに目を曇らせては、自分の置かれている状況や問題を見失う。冷静に行動しなければならない。
今の問題は目の前の半魚人だ。この半魚人は、並大抵の物理攻撃を遮断する、ゴム状の皮と肉を持っている。殴り攻撃は全然効果がない。今手元にあるのは、ナイフと剣と槍。そのうち、槍はそれなりに、ナイフは僅かばかりにダメージを通す。剣は少々不利だ。どこか、皮が剥げている場所があれば、奥深くまで刃を突き立てられるのだが…。
「よくもやってくれたわね!ただで済ませるつもりはないから、覚悟なさい!」
メミカが、彼女の足下からバルの剣を拾い上げ、ぶんと振り回して啖呵を切った。バルでは、両手でやっとだった剣が、メミカでは片手で容易に振り回せている。やはり、ラミアの腕力は強いらしい。
「食らいなさい!」
ぼぉぅ!
メミカが、剣を握っていない左手を前に突きだした。火球が飛び出し、半魚人の顔にぶち当たる。
「ギョアアア!」
半魚人は、顔から煙を出しながら、のたうち回った。その間に、メミカが突進し、頭に向かって剣を振り下ろした。剣は、まるで硬いゴム鞠にぶつかったかのように跳ね返ったが、その一撃にはさしもの半魚人もタダではすまなかったらしく、ギャアギャアとわめき始めた。
「何か、何かないのか…」
ポーチに手を突っ込み、バルが中を探した。今この場を打開するようなものが、都合良く入っているとも思えないが。薬瓶、携帯食料…。
「…これだ!」
バルの手は、カンテラ用オイルの入った瓶に突き当たった。瞬間的にでも、多くの火力をぶつけてやれば、相手は怯むはずだ。後は、そのとき考える。行き当たりばったりではあるだろうが、出し惜しみして命を失うよりはいい。
「メミカさん、油が行くよ!火を付けて!」
言うが早いか、バルはオイルの瓶を投げていた。瓶がくるくると周り、半魚人の背中に当たった。がちゃん、と小さな音を立て、瓶が割れてオイルが半魚人にふりかかる。
「ええーい!」
ぼぉぉう!
先ほどより大きな火球が、ライアの手から飛び出した。それが半魚人の背中に当たったとたん、キャンプファイアのように大きな火が一気に出来上がった。
「グアアアア!グアアア!」
半魚人が手を振り回して火を消そうとしている。だが、この火の勢いではそれも徒労だ。身の表面が焦げ、皮膚が剥げだした。
「バル君、剣を!」
メミカがバルの方へ剣を滑らした。バルはナイフを置いてそれを受け取り、剣を両手で構えた。バルが、剣と一身になり突進する。
「だあああああああああああ!」
ずがぁ!
バルの剣が、ボロボロになった背中を切り裂いた。斜めに真っ直ぐ裂かれた跡から、粘液がどろどろとあふれ出る。半魚人が、バランスを崩してうつぶせに倒れた。
「とどめぇ!」
ざくっ!
「グエエエエエエ!」
だめ押しにと、バルは首を上から切り落とした。首は完全に落ちることはなかったが、大きな割れ目がぱっくりと開いた。しゅうしゅうと、音を立てて半魚人の体が燃える。半魚人の肉は、煙を噴いて気化していき、最後には床に黒い染みを残して消えてなくなった。
「消えた…これは?」
気味悪そうに染みを見つめ、メミカが槍を拾い上げた。
「旧世界の魔物の中には、希にこういうのがいることがあるんだ。元々持ってる実体が曖昧な場合とかは、消えて無くなることがある」
ふうと息をつき、バルが前に出る。そして、上で見物をしていたニウベルグの方へと顔を上げた。
「後はあんただけだ。降りて来いよ」
今のバルは、先ほどのボディプレスのせいで、満身創痍の状態だ。だが、メミカの方はまだ、それほどダメージを受けていない。上手く立ち回れば、まだ行けるはずだ。
「なかなかやるもんだ。面白い面白い」
とすっ
軽く音を立て、ニウベルグが落ちてきた。この男は許すわけには行かない。バルは剣を振り上げ、突っ込んだ。
「ふんっ!」
ニウベルグの手が持ち上がった。危ない気配を感じて、バルがとっさにしゃがむ。
ずががががあああ!
後ろの壁で、何かが崩落するかのような音が響いた。何事かと後ろを見れば、壁が崩れ、その奥に暗い洞窟が顔を見せている。
「もろい壁だな。あっちの方は、トリャン鉱山の方か」
ニウベルグが笑う。この男は、空気を操る魔法を使った様子だ。召還術、幻術、そして魔術まで操るとは、かなり多彩な男らしい。
「逃がさないわ!」
メミカが槍を振りかぶって、尻尾をバネのように使い飛び上がった。穂先をニウベルグに向けて、真っ直ぐに落ちる。
「メミカさん!」
バルが叫んだ時には、もう遅かった。
どぐぅ!
ハンマーで肉を叩くような音が、ホールの中に響き渡った。メミカは、腹を巨人にでも殴られたかのように、後ろに吹っ飛んで床に転がった。
「うげっ、おえええ…!」
胃の内容物が、どろどろとメミカの口から溢れる。相当な衝撃が腹部に加わったらしい。メミカの目から、涙が溢れる。
「ふざけやがって!」
もう一度、バルが突進する。バルは、怒りで頭がかあっと熱くなった。目の前でメミカがやられているのだ。その借りは、倍にしてこいつに返さなければならない。剣で打ち、何発も殴ってやりたい。
「猪突猛進ってやつだな。うっとおしいんだよ、若造が」
ニウベルグが手を出した。と、次の瞬間。
ぼぐぅ!
「ぐへぁ!」
バルは、顔に強い衝撃を感じ、意識を暗転させた。
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