1000ヒット記念しもねたギャグノベル!

 しもねすのたり



 昔々、あるところに、大きな川がありました。
 その川は流れが速く、なかなか渡ることは出来ませんでした。泳いで渡ろうとしても、流れに流され、次の日には海に流れ出してしまうほどでした。そう、道頓堀に投げ込まれた、ヒゲのチキンおじさんのようになってしまうのです。
 その川の近く、ウサギの村に、一人のウサギの女の子がいました。その女の子は、真っ白な毛をしていて、ウサギの村でも美人だと噂される女の子でした。ただ、性悪な性格と口の悪さが災いして、彼氏がいませんでした。
 ある日その女の子は、用があってその川を船で渡りました。
 渡って用事を済ませたまではいいのですが、川岸に戻ってみれば、乗ってきた船がいつの間にか流されてしまっていたのです。川岸を見ても、何も見えません。
 昨日の天気は大雨。どうやら、水の量が増えたせいで、船が流されてしまったようです。
「ちっ、しくじったな。泳いで行けないことはないが、しゃくに障る。せっかく下ろしたおにゅうのワンピースが汚れるじゃねえか」
 ウサギ娘は川岸に座り、しばし考えました。
 縄を向こう岸に投げる…いや、しっかりとくくりつけないと落ちてしまうでしょう。
 船を新しく造る…いや、彼女はウサギ娘であって、大工ではありません。
 空を飛ぶ…いや、この辺りに彼女を運んでくれそうな鳥はいません。猛禽類のヤンキーに捕まったが最後、食べられてしまうでしょう。
「八方ふさがりか。ちくしょう、ついてねえなあ…」
 ウサギ娘は寝転がり、その場に生えていたヨモギの葉をくわえ、ぼうっと空を見上げました。太陽がじりじりとウサギ娘の体を灼きます。
「このままじゃ日焼けする…あ、毛は日焼けしないか。しっかし、あち〜なあ…」
 と、彼女の敏感な耳に、何かがばしゃばしゃと水をかき分ける音が聞こえます。
 起きあがって見てみれば、この急流を物ともせず、多数の影が泳いでいました。緑の鱗に立派な体。ミズトカゲ族の若い男達です。
「はっはっは、気持ちいいなあ」
「まったくだ。昨日は大雨が降ったから、川の水も多い。まったくもって愉快な気分だ」
「ようし、一つ泳ぎ比べでもしようじゃないか」
 ミズトカゲ達は、川をばしゃばしゃと泳いで行きます。ウサギ娘は、彼らを見て、ぴんとひらめきました。
「ちょいと、お兄さん方!」
 ウサギ娘が川に向かって声を投げかけました。
 ミズトカゲ達は、何事かと、水の中からぬっと出てきました。そろいもそろって、ブーメランのようなきゅうきゅうした海パンを履いています。
「何か用かね、お嬢さん」
「はっはっは、何でも言ってくれたまえよ」
「しかし美しい毛並みだね。我々には真似できない」
「その尻尾のぽあぽあ具合もとても素敵だ」
 ミズトカゲ達が口々にウサギ娘を誉めます。彼らは人気のある女性を射止めることの出来るだけの力を持っておらず、ウサギ娘がとても美しく見えたのでしょう。
『きしし、なんだこいつら。まったくもってバカじゃねえか。正面から頼むより、騙してやるほうが面白いかもしらん』
 ウサギ娘は心の中で黒い笑いをしました。
「いやいや、まったくお前ら、すげえよ。力もあるし、かっこいい。そこでだな、あたしが今考えた、ちょっとした技で、川を驚かしてやろうじゃないかと思ってねえ」
 ウサギ娘がくすくす笑いました。その仕草に、ミズトカゲ達が見とれます。
「川を驚かす?どういう意味だ?」
 一人のミズトカゲがウサギ娘に聞きます。
「こっちの端から、あっちの端まで、みんなで並んでだな。川をせき止められるんじゃないかって思ってさ。あたしは上をぴょんぴょん飛び跳ねて、みんなを応援するよ」
 ウサギ娘の指が、向こう岸とこちらを指さしました。ミズトカゲ達は、その思いつきが気に入りました。元来、彼らは大人でも子供っぽい遊びが大好きですから。
「ようし、いっちょやるか!お前ら、気ぃ入れるぜ!」
 ミズトカゲ達が水の流れに垂直に立ちます。そして仁王立ちになり、肩を組みました。
 いかに川の流れが強いとは言え、そのディフェンスに勝てるわけがありません。だんだんと川が堰き止められます。
「がんばれ!がんばれ!」
 ウサギ娘は、彼らの肩から肩を、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねました。
 ミズトカゲ達は、肩にウサギ娘が乗った程度では、びくともしない体を持っていました。しかし、やはり女日照りの雄集団。彼女が飛び跳ね、スカートがめくれるたび、そちらへ目をやってしまいます。
『へへ、バカだな、バカ。面白いったらありゃしねえや』
 ウサギ娘は心の中でほくそ笑みました。そして、ちょっとしたいたずらを思いつきました。
 どすんっ!
「あん!」
 転ぶふりをして、一人のミズトカゲの頭に、お尻を打ち付けたのです。
「ご、ごめんなさぁい、大丈夫?」
 わざとらしく聞くことも忘れません。お尻を打ち付けられたミズトカゲは、一瞬ふらっとしましたが、すぐ持ち直しました。
「大丈夫さ、はっはっは。私たちが本気になれば、例え核ミサイルが突っ込んできても、はじき返してみせるよ」
 その言葉に、ウサギ娘は思わずぞっとしましたが、何も気づかないふりをしてぴょんこぴょんこと飛びました。
 そしてとうとう向こう岸へついたとき、最後の一人の肩の上で、思わず彼女は失敗してしまったのです。
「へっへっへ、ありがとうよ。橋になってくれて。騙されてることに気づかないなんて、ほんと間抜けなトカゲの集団だぜ。元気で尻尾振ってな!」
 そう言って最後に飛び降りようとした、そのときです。
「なにー!騙していたんだな!」
 がしっ!
 ミズトカゲの強靱な腕が、ウサギ娘の足を掴みました。
「あ、てめえ!何しやがる!離せー!」
 ウサギ娘はばたばたと抵抗しましたが、ミズトカゲに敵うはずもありません。そうこうしている間に、ウサギ娘の言葉が伝言ゲームのように伝わり、多数のミズトカゲがウサギ娘を取り囲みました。
「ちくしょう、離せー!ぶっ飛ばしてやるぞ!」
 ばたばたばたばた
 押さえつけられたウサギ娘が叫びます。
「人を騙した上に、そんな憎まれ口を叩くとは、感心しないなあ。素直に謝れば許してあげよう」
「やかましい!脳味噌筋肉のトカゲめ!騙される方が悪いんじゃ、ボケ!」
「ううむ、もうこれは情状酌量の余地はないねえ…」
 ミズトカゲ達はぼそぼそと何かを話し合っていましたが、一人の提案がいたく気に入ったらしく、全員がそれに同意しました。
「会議の結果、君にお仕置きをするしかないようだ。性的な意味で!」
「せ、性的な意味でぇ?そりゃどういう…あ!」
 ウサギ娘が何かを言う前に、彼女の新品のワンピースは剥ぎ取られ、下着はぽいと投げ捨てられてしまいました。後ろで、投げ捨てられた服を丁寧に畳む一人がいる他は、全員がウサギ娘の周りを取り囲んでいました。
「ぎゃー!離せ、離せぇ!助けて、誰かー!」
 ウサギ娘が叫びます。しかし彼らは、まるで鉄で出来た人形のように、微動だにしないのです。
「ええい、往生際が悪いぞ、裁きを受けたまえ!」
「マッチョメーン!マッチョメーン!」
 ずんっ!
「ぎゃあああああああ!」


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