次の日の朝。竜馬、修平、真優美の3人は、職員室の前に立っていた。中にはアリサが入り、自分の下着のことを、教師に話しに行っていた。しばらくしてドアが開き、アリサが外に出る。
「ないって。本当に、お金と内履きしか、盗まれてなかったんだって」
「嘘だろ〜?」
 アリサの言葉に、修平が返事を返す。
「きっと、犯人が持ったままなのよ。くぅ〜、悔しい!」
 斜め上を見つめるアリサ。彼女の後ろで、もう一度ドアが開いた。見ると、蛇山先生がそこに立っている。
「シュリマナさん。たしか、盗まれたの、下着だって?」
「ええ、そうです。どうしたんですか?」
「もしかしてそれって、これじゃないのかな〜?」
 蛇山先生が紙袋を出す。本屋のロゴの入った、どこにでもある紙袋だ。アリサが受け取り中を見る。と、彼女の顔が引きつった。
「こ、これを、どこで?」
「昨日の掃除時間中に、届けてくれた子がいたのよ。ほら、ちょうどあそこにいる」
 蛇山が廊下の向こうを指さす。歩いているのは、地球人体系の女の子だ。強気な顔をした子で、茶色の髪をショートレイヤーにしている。
「何年生なんですかぁ?」
 真優美が少女の動きを目で追いながら聞いた。
「あなた達と同じよ。同じクラス。名字は松葉さん。下の名前は、たしかねー、美華子ちゃんだったかな」
「へぇー」
 竜馬は美華子という少女のことを知らなかった。1週間経ち、教室内のメンバーの顔や名前を把握していたと思っていたが、まだ知らない名前があったようだ。
「まあ、とりあえず、泥棒のせいじゃなかったってことでいいわね。何かあったら、また呼んで?」
「あ、はい。ありがとうございました」
 一同が蛇山先生に頭を下げる。彼女が職員室内に消えたあと、アリサに他の3人の視線が集まった。
「要するに、ただの落とし物だったわけか。ふーん、俺ら、意味もなく呼び出されたわけか」
 竜馬は昨日からの疲れと、怒りをゆっくりと吐き出し始めた。アリサの目が泳いでいる。
「えーと、その、あの…ま、まあ、見つかってよかったなー、みたいな?あはは〜」
 適当なことを言うアリサ。もちろんそれでは済まされない。にじり寄る面々に、焦った笑顔をふりまく。
「ご、ごめんね?もうちょっとちゃんと、確認すれば…あ、そうだー」
 アリサは手に持っている紙袋を竜馬に押しつけた。
「竜馬、これ、あげる〜!くふふ〜、それ、私だと思って?」
 竜馬は体の内側から、熱い怒りがこみ上げるのを感じていた。
「みんな、ほんとにごめんね?まあ、青春の1ページだと思って。ほらほら、竜馬、くんくんしていいのよ?」
 すりすりとすり寄るアリサ。竜馬はまたもや、怒りの限界を感じた。体の中で、ぶちりと何かの切れる音がした。
「いらねえよ!ボケぇ!」
「んわふぅ!?」
 アリサの耳をつかみ、中に大声で叫ぶ。
「えー!?なんでよー?」
「お前は昔からそうだったよな!適当に言い訳して!ちゃんとみんなに謝れ、このバカ女!」
 今にもつかみかかりそうな竜馬を、修平が押さえつけた。
「まあまあ、俺、もう怒ってないよ」
「お前は怒ってなくても俺が怒ってんだよ!この変態女に!」
 竜馬の言葉を聞き、アリサもだんだん腹が立ってきたようだ。竜馬に詰め寄る。
「何よ!変態って!悪かったって言ってるじゃない!」
「逆切れするなよな!お前、責任感とか…」
「知らないわよ!竜馬、怒りすぎで…」
 言い合いを始めた2人を見て、修平がため息をついた。真優美も、止めることが出来ないと思ったらしく、手出ししない。
「楽しそうだな〜…」
「ははは、もう慣れたよ」
 喧嘩は白熱しているらしい。アリサが竜馬の手に思い切り噛みつき、竜馬がそれを引き剥がそうとしている。下着の入った紙袋を無理矢理竜馬のポケットに押し込み、アリサはますます強く噛みついた。
「竜馬君…」
 真優美が熱っぽい視線で竜馬を見つめる。それは、彼女の中に、竜馬への小さな恋心が芽生えた瞬間だった。


 (続く)


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