「助かったよ。ありがとう」
 メキャがにこにこ顔で言った。彼の腕には、ぐったりとしたアオオオネコが抱かれている。見ようによれば、敷布のようにも見える。
「いえいえ、当然のことをしたまでですよぉ」
 真優美がにこにこと微笑んだ。悪意や裏がないのは彼女だけで、残りの5人はそれなりの下心を持っていた。
『ご、ごめんなさい、ごめんなさい…むしゃくしゃして、そこらの人の心をねじ曲げて遊んでたんです…も、もうしないから、ギターは許して…』
 アオオオネコの思念がだだ漏れになっている。大きな音に対する恐怖がかなり大きかったようだ。
「それで、お礼の方をいただきたいのでございますですが…」
 竜馬が無茶苦茶な丁寧語を口にした。100万が手にはいる。そう考えるだけで、彼の脳内には花畑ができあがっていた。
『まずは漫画シャドウレオパルド全巻そろえるだろ?それからバイクの免許取って、バイク買って…少しは姉貴にあげた方がいいんかな…ああ、新しいパソコンも欲しいな』
 幸せな想像が竜馬を包んでいる。少しくらいの贅沢は許されるだろう。逆に、貯金しておいて、緊急用のお金にすることだって出来る。先ほど預けていた大量の景品を受け取り、重い袋を両手に持っていても、その重さが感じられないほど、竜馬はハッピーだった。
「うん、本当にありがとうな。こっちに用意してある」
 メキャが歩き出した。その後を、6人がぞろぞろとついていく。公園の外に出たメキャは、一人の女性屋台主に声をかけた。
「よう、ねえちゃん。出来てるかい?」
 女性屋台主が顔を上げる。そこにメキャがいることに気が付くと、はっとした顔をして、手を下へ伸ばした。
「出来てるよー。いや、しかし、こんなに買ってもらっていいの?」
「いいんだ。うん」
 どさっ
 女性が置いたのは、大量のビニール袋だった。中にはプラスチックのパックが入っている。香る鰹節、目立つ紅生姜、そして小麦粉とダシの混ざった生地が焼き上がるなんとも言えぬ匂い…それがたこ焼きだと理解するのに、時間は必要なかった。
「約束のお礼だ。受け取ってくれ」
 メキャが一人一人に袋を渡す。
「…え?」
 修平が袋を開いて中を見る。何の変哲もないたこ焼きのパックが10パック、それぞれ10個ずつたこ焼きが入っている。本当に困っていてンガーな魔法使いならば泣いて喜ぶだろうが、今この場にいる少年少女にとって、100万とたこ焼き100個では雲と泥ほどの差があった。
「ありがとうございましたー」
 女性屋台主がメキャから金を受け取った。
「お金じゃなかったの?」
 美華子ががっかりした表情でメキャとたこ焼きを交互に見た。
「いや…お金だとは一言も…」
 メキャが困惑気味に6人を見回す。
「何よー!私は、私は何のために、こんなかわいくもなければバカでアホな猫を捕まえなければ…」
 アリサががっくりと膝をついた。もしアオオオネコに聞こえていればまた怒っただろうが、今の言葉は聞こえていなかったようだ。
「もうこうなったら食べるしかないな。宿題をやりながらいただくとしよう」
 袋の中を見て、恵理香が言う。
「し、宿題!」
 宿題、という単語に、竜馬が強く反応した。
「俺は宿題なんかせず、自由の国へ行くんだー!」
 べしゃっ
 たこ焼きの袋と景品の袋を投げ出し、竜馬が走り出した。
「アリサ!」
「はーい」
 がしっ!
 名を呼ばれたアリサが、竜馬の後ろから竜馬に抱きついた。腕も体も、彼女の怪力で締め上げ、逃げる隙を与えない。
「竜馬君、宿題しないと、お尻ぺんぺんなんですよぉ?」
 真優美が見当違いのことを言い、竜馬の落としたたこ焼きと景品を持ち直す。彼女はさっきからたこ焼きを食べたくて仕方がないようで、尻尾がぱったぱったと揺れていた。
「ちくしょう、離せ!離しやがれ!」
 竜馬がばたばたと暴れた。
「ダメよ。これからは愛と言う名の不自由で縛ってあげるわ〜」
 あぐあぐ
 アリサが竜馬の耳を噛み、竜馬を連れていく。
「は、はは。なんかしらんが…まあ、助かったよ。縁があったらまたあおう」
 メキャは頭を一つさげ、アオオオネコを抱いて去っていった。その姿を見て、竜馬は思わずどきりとした。恋人を抱く男の背中がそこに見えたからだ。
「よーし、おとなしくなったわね。さ、手伝ってあげるから、宿題終わらせましょ?」
 アリサが微笑み、竜馬の頭を撫でた。
「わーったよ…離してくれ、暑いよ」
 竜馬がアリサの手を払い、地に立った。アリサがすかさず腕に抱きつく。竜馬が払いのけてもアリサは抱きつくので、3度目を数えたところであきらめてしまった。
「俺も宿題しないとなあ。よし、竜馬ん家にまず行こうか。そっからだな」
 修平がアンプとたこ焼きを背負い、歩き出した。美華子、恵理香、そして竜馬とアリサが並んで続く。
「あ、待ってくださいよ〜」
 真優美が慌てて後を追った。食欲を抑えきれなくなった彼女は、既にたこ焼きを食べはじめている。
「もう、みんな足が速い…」
 一瞬、真優美は言葉を失った。竜馬の腕に抱きつくアリサの姿が、先ほどのメキャとアオオオネコにかぶる。それは恋人同士としか形容が出来ない、優しさを持った図だった。
『…負けないもん!』
 真優美の心に火がつく。ライバル心という名の火が。彼女は、アリサからヒロインの座を奪い、竜馬を手に入れようと心に誓った。
 夏の日は長い。まだ沈まない太陽は、祭りの熱気を陽光であぶり、さらに熱いものとしている。そして、そんな太陽に寄り添うように、空にうっすらと月が昇っていた。


 (続く)


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