ばたん!
 大きな音で、扉が開いた。中にいたのは、ニウベルグとロビンの2人だ。ひときわ大きな棺が、小さな室内に存在しており、棺の蓋が開いていた。そして、幽霊が棺の上にいる。が、何か様子が変だ。
「わ、わ、わたしは、しら、ないの、だ。ゆ、ゆ、ゆるして、くれ」
 幽霊が何かを言っている。ニウベルグはそれを無視して、バル達の方へと顔を向けた。
「お前等、あれを倒したのか?」
 ニウベルグが、4人に聞く。今までの、調子づいた声ではない。真面目で、温度の低い声だ。
「悪いけれど、やらせてもらったわ。後は、あんた達だけよ!」
 ひゅん!
 メミカの槍が、ニウベルグに向いた。ロビンが矢を手に取る。
「何度やっても無駄だ。お前等じゃ、俺を倒すことなんざ、できねえさ」
 自信たっぷりに、ニウベルグが笑う。そんなニウベルグを無視して、バルは幽霊に目を向けた。
「お前、何をしている。ここに来た目的はなんだ?」
 敵意たっぷりの目で、リキルがニウベルグを睨み付けた。ニウベルグから漂う、悪の気質を、リキルは感じ取ったようだ。
「探し物さ。こいつが知ってると思ったから、聞いているだけだ。おら、本当のことを、白状しろよ」
 ニウベルグが指を動かした。それと同時に、幽霊が痙攣し始めた。
「し、しらない!しらないんだ!ここには、もう、ないんだ!もっていかれてしまったんだ!」
 幽霊の悲痛な声が響き渡る。ロビンが、それを見て、嫌悪感を顔に出した。それは、幽霊を嫌っているからなのか、それともニウベルグの行為に嫌悪感を抱いているのか…。
「それは、本当か?」
 ニウベルグの冷たい声が、幽霊に向けられた。
「ほんとう、だ!ネズミ、じゅうじんたち、やってきたんだ!どこかに、もっていかれて、しまったんだ!」
「それなら、もう用はねえな。あばよ」
「あ、あ、ああああああ!」
 ニウベルグが手を握ると、幽霊ががくがくと動き始めた。そして、はじけ散り、光の粒をまき散らして消えた。
「なんてことを…!」
 憎しみのこもった視線を、メミカが向ける。
「幽霊といっても、人に害成す存在でなかったはずだ。なぜ、こんなことを!」
 リキルが怒りを露わにする。
「探し物さ。この遺跡にあったはずなんだ。この方法で、幽霊を尋問すれば、幽霊は苦しみから本当のことを言わなければならなくなる。もっとも、こいつはそのやり方を嫌っているようだがねえ」
 にやにや笑いで、ニウベルグがロビンを指した。
「もう逃がさないぞ。これ以上の横暴は、俺が許さない」
 かきん
 剣を構え、ニウベルグとロビンを見据えるバル。この狭い部屋だ、しかも4対2という条件だ。上手く立ち回れば、勝てるのではないかという考えが、バルに起こる。
「悪いが、まだ捕まるわけにはいかねえなあ」
 ニウベルグが、床に手を当て、にやりと笑った。と。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「な、なんだ?」
 足下が揺れる。地震のような、不定期周期の揺れだ。
「もうこの遺跡に、用はない。俺達は、先に失礼しよう。プレゼントを、受け取ってくれや」
「何をしたんだ!」
「なあに、ちょっと地脈をいじって、地震を起こしただけさ。生き埋め程度で済むだろうよ」
 リキルの焦り声に、にやにや笑いで返事をする。ぱらぱら、と天井から砂や小石が落ちてくる。
「遺跡を潰すなんてやりすぎだ!」
「いいじゃねえか。お前は几帳面すぎるんだ。これぐらい派手にやった方が、面白いだろ?」
 ニウベルグが、ロビンの頭に手を置いた。と、2人が光り始めた。
「待つんだ!」
 バスァレが光を放つ2人に駆け寄る。しかし、一歩遅く、2人は光の粒になって消えてしまった。
「何が起きたの?」
「この施設の外に抜け出す魔法だ。僕たちは、ここに置き去りにされたんだ」
 不安そうに聞くメミカに、バスァレが苦々しげに返事した。今、この遺跡は崩れようとしている。それまで、どれだけの猶予があるのかわからないが、早く逃げ出さないと危ない。
「外に!」
 部屋を飛び出し、墓地へと逃げ出す4人。しかし、出口側の扉が岩で埋もれ、もうどこにも逃げ出すことが出来なくなっている。天井から、いくつもいくつも、岩が落ちてくる。同時に、砂も。
「…どうやら、もうおしまいみたいだな」
 剣を鞘に入れ、リキルがふうと息をつく。
「う、嘘でしょ?死んじゃうの?」
 絶望に満ちた表情で、メミカがぺたんと座り込んだ。
「その可能性は、とても高いよ。諦めたくはないけどねえ」
 困ったね、というジェスチャーをしてみせるバスァレ。じたばたしても無駄かも知れない。バルも、剣を鞘にしまった。
「う、嘘!こんなところで終わるっていうの!?いやよ!」
「メミカさん…」
「だって、まだ私、私…ああ、ああああ!師匠!師匠ぉぉぉ!」
 大声で、メミカが泣き始めた。いたたまれなくなったバルは、その肩を、両手でぎゅっと抱いた。生き埋めはそれほど怖くない。死ぬのも、旅人ならば、常に覚悟しなければならないことだ。だが、他人の涙を見るのだけは、辛かった。
 ずずずずううううううん!
 天井が落ち、多数の岩と砂が流れ込んできた。そして、バルは目を閉じた。

 遺跡は崩壊した。4人は、暗い砂の下に、埋められることとなった。
 もう、これで終わりになってしまうのだろうか。これから4人を待ち受ける運命は?


 (続く)


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