遙か昔。この星には眠らない街と素晴らしい文明がありました。空を飛ぶ機械。自由自在に海の底を潜ることが出来る乗り物。星の世界、宇宙にまで飛んでいった人工の船。それらは人々の世界を豊かにし、すべての人々は楽に暮らしておりました。
 そのころの人々は外見的差異がなく、みんな同じ姿をしていました。彼ら、毛皮を持たない人々は、今では考えられないほどの知恵を持っていました。
 しかし、その文明は何故か滅んでしまいました。今に残るのは遺跡だけ。何故彼らが滅んだのか、それは誰にもわからないのです…


 アニマリック・シヴィライゼーション
 7話「ジャンバルの街」



 ジャンバルの街は、ランドスケープという王国の配下の街だ。王都に比べたら規模こそ小さいが、広大な畑のある立派な農業都市だ。主な産業は野菜と豆、それに小麦であり、それらの加工食品も多く輸出している。また、布製品が多く生産されており、素晴らしい服職人も多い。あまり高い建物はなく、平坦に街が続いているが、その中でも街の中央に立つ「見晴らし塔」だけは背が高く、ひときわ高くそびえ立っている。
 この街は、ランドスケープ王国城下町から、街道を西に徒歩で1週間かかる土地だ。王国領とは言え、それなりには遠い。ジャンバルの街と王都の間には、目立った休憩施設もないので、旅行者は不便を強いられることとなる。この街道は、途中にある砂漠を避けるように、北の方へ大きく迂回をしている。街道を使わず、砂漠だけを突っ切れば、おおよそ2日でジャンバルに到着することが出来るが、砂漠用の馬車やラクダを借りるのにはそれなりの金がかかる。歩いて砂漠を渡れないこともないが、危険と苦労がつきまとう。
 さて、そのジャンバルにある、ある酒場に目を移そう。酒場は、昼だというのにとても混んでいた。テーブルはほぼ満席で、ウサギ獣人のウェイトレスが忙しそうに歩き回っている。酒場の入り口には、酒類の他に食事も扱っていると書かれた看板がある。
 その酒場の隅のテーブルに、ここにはあまり似つかわしくない3人組が座っていた。犬系獣人の少年が1人、猫獣人のハーフ少年が1人、そしてラミアの少女が1人。獣人少年は茶色い毛、ハーフ少年は黒い毛で、ラミアの少女の赤い髪と尻尾をしている。それぞれ、バルハルト、リキル、メミカと言った。
「んぐっ、んぐっ…ふはあぁ…」
 樽ジョッキの中に入った葡萄ジュースを、バルは一気に飲み干した。イスに座り、テーブルで飲食をするのは、久しぶりだ。リキルの前とメミカの前にも飲み物があり、テーブルの端には茹でて塩をかけたジャガイモが皿に盛られている。
「ようやく人心地ついたね。水浴びして、すっきりしたいわ」
 うーん、と声を出し、メミカが伸びをする。
「ピザ、一番大きいサイズです。お待たせしました」
 どすん
 重量感のある音がして、テーブルの上に大きなピザが置かれた。小麦で出来た丸く薄い生地に、トマトやサラミや卵などが乗り、その上に大きなチーズが一面に乗っている。人の発想というのはどうも似通うらしく、世界のあちこちに伝えられているレシピには、似たようなものが多くある。この「ピザ」も、世界中で似たようなものを食べることが出来るし、この地方でもよく食べられている食品だ。漂う匂いに、バルは喉を鳴らした。
「それでは早速…」
 ピザ切りナイフを手に取り、リキルがピザを切り分けた。それぞれ、自分の食べる分を皿に取る。
「美味い…お世辞じゃなく美味いね」
 ピザをほおばったバルが、心底感嘆して声を出した。
「本当だ。この香草といい、チーズといい。ピザなんか久々に食べたけど、本当に美味いな」
 こぼれ落ちたマッシュルームを、リキルが拾い上げて口に投げ入れた。
「これだけでもここに来た価値があるってもんだね」
 一息ついたバルは、メミカが浮かない顔をしていることに気が付いた。黙ってピザを食べ、俯き気味に何かを考えている。
「メミカさん、どうかした?調子でも悪いのかな?」
 フォークで副菜のジャガイモを刺し、バルが聞いた。
「あ、ううん。これから先のことを考えていたの」
 メミカがえへへと笑った。彼女は少し緊張した面もちだ。それも無理はないだろう、とバルは考えた。
 彼ら3人は、元々は王都にいたのを、わざわざこの街へやってきたのだ。しかも、危険な砂漠を通って。事の初めは、3日前に遡る…。


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