遙か昔。この星には眠らない街と素晴らしい文明がありました。空を飛ぶ機械。自由自在に海の底を潜ることが出来る乗り物。星の世界、宇宙にまで飛んでいった人工の船。それらは人々の世界を豊かにし、すべての人々は楽に暮らしておりました。
 そのころの人々は外見的差異がなく、みんな同じ姿をしていました。彼ら、毛皮を持たない人々は、今では考えられないほどの知恵を持っていました。
 しかし、その文明は何故か滅んでしまいました。今に残るのは遺跡だけ。何故彼らが滅んだのか、それは誰にもわからないのです…


 アニマリック・シヴィライゼーション
 11話「ソイクギンレの港町&ベルガホルカの神殿」



『…止めてよ』
 誰だ、君は。
『早く、しないと…大変なことに…』
 何を止めるんだ。俺にはわからない。
『早く、急いで…』
 何が何だか…君は一体…。


「お客さん、ついたよ」
 老齢の鳥羽人の男が、馬車の御者台から、中を覗き込んだ。乗っているのは、大きな樽や木箱。そしてその間で寝ている、茶色い毛をした犬獣人の少年だ。剣代わりに使えるような大刃のナイフを持ち、膨らんだ鞄を持つその少年は、老人に声をかけられて昼寝から目を覚ました。彼の名は、バルハルト・スラック。この、ランドスケープ王国へ偶然やってきた、旅人の少年だ。
「もう、か」
 起きあがり、大きく伸びをするバル。何だか、変な夢を見たような気がする。でも、内容をよく思い出せない。何だったんだろうか。
「ありがとう。いくらかな?」
「これだけだ」
 運賃を聞くバルに、指を3本立てる老人。バルはその金額の硬貨を、老人の手に握らせた。幌の外に出たバルを迎えたのは、どこまでも続く大きな海と、港町だった。
 ソイクギンレと呼ばれるこの港町は、漁と貿易の街だ。老人は、この港町のとある貿易商に、街からの荷物を運ぶ荷運びの仕事をしており、この荷物はこの船着き場で下ろすことと言われていた。バルはそれに同乗し、ここまでやってきたのだった。
「この時期に、ソイクギンレに来るなんざな。派遣された傭兵かなんかか?」
 どっこいしょ、と言いながら、老人が樽を荷台から下ろす。
「旅人さ。ちょっと、沖合の神殿に用事があってね」
 バルもそれを手伝いながら、返事をする。
「沖合の神殿?つうと、あれか」
 老人の指さした先には、小さな島が見えた。その島の上に、石造りの建物が見える。元は灰色だったであろうその建物は、潮風を受け続けたせいか白くなっている。
「ベルガホルカの神殿だって話だ。主神様に反乱した星神様だろう?あの遺跡の門には鍵がかかっとる、中に入ることも出来やしない。あんなところに何の用があるってんだ?」
 どすん!
 銀細工品が大量に入った箱を下ろし、老人が聞く。がっしりとした宝箱で、剣や矢でこじ開けることは不可能だ。これだけの銀があれば、地方や国によっては家が建つ。
「あそこに隠されてる、お宝に用があってね」
「お宝だ?つーことは、お前さんトレジャーハンターかなんかかね」
 ふふっと笑うバルに、老人が怪訝な顔をした。
「まあ、そんなところかな」
 最後の箱を、バルが下ろし、ふうと息をつく。
「そういやこの街にも、あの神殿に行きたいと言っておったやつがいた。なんでもすごい宝があるとかな」
 老人が、沖合の島を見て、つぶやくように言った。
「へえ、俺以外にも?」
「ああ。まあ、なんというか…夢見がちなやつなんだが…」
 バルの言葉に、老人が言葉を濁らせる。
「まあ、無理はせんようにな。旧世界の魔物のせいで、大抵の遺跡は危険になっとるからな」
 箱の上に腰掛け、老人が言う。
「ありがとう。まあ、死なない程度にやるさ」
 バルは礼を言い、波止場から離れた。今からずっと前に、世界中の遺跡にて、魔物が発生したという「旧世界の魔物」事件。それ以来、人々は不可思議な力を持つ魔物達に苦しめられて生きることとなった。遺跡、平原、森、世界中のあらゆる場所に、魔物は潜んでいる。多くが、人間に害成す存在だ。バルも、何度か交戦したことがあった。
 今回、彼があのベルガホルカの遺跡に来たのは、中に隠されているはずの指輪を探すためだ。星神の力を秘めた、不思議な指輪。水の神カルバ、火の神メースニャカ、風の女神ベルガホルカの力を秘めた指輪がそれぞれ1つずつ、合計で3つある。これらを集め、然るべき儀式を行うと、古代の邪神が蘇ってしまうのだそうだ。
 それを目的に、指輪を集めている者が1人。悪魔人の召還士、ニウベルグだ。何の因果で、誰に頼まれてそんなことをしているかはわからないが、星神の指輪を集め、邪神を蘇らせようとしているらしい。
 成り行きで、指輪を手に入れたバルは、この事件に巻き込まれることとなった。現在、カルバの指輪はニウベルグが、メースニャカの指輪はバルが持っている。早く最後の指輪を確保しなければ、邪神復活へまた一歩近寄ってしまうことになる。もしそうなれば…。
『そうなれば?』
 どうなるというのだろう。古代、この国が荒れ果てる原因となった邪神という話だが、彼が復活して国がどうなる、という具体的なビジョンはわからない。恐らく、大変なことにはなるのだろうが…。
『悪い方向に考えるのはやめようか』
 今は目の前の事件を解決するのが先だ。ベルガホルカの神殿に入る算段はついている。バルは、ポケットから金属のカードを取り出し、王国のランドスケープ王城にてあった出来事のことを考えていた。  


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