私は、巨大な建造物というものに、並々ならぬ恐怖を覚えます。とは言っても、どんな巨大建造物にでも怖さを覚えるわけではありません。例えば巨大な橋桁、例えばダム、例えば明かりのすっかり消えた高層ビルなど。言うなれば、人が作った、人の気配の感じられないものが怖いのです。
最初、このことに気がついたのは、夜中に山中をドライブしていたときのことでした。暗く巨大な山の影に、街灯一つない道で、あちこちから虫の声がしていたような気がします。そのとき、自分の走っている道の右側に、巨大な橋桁だけが見えたんです。どうやら、新幹線の線路か高速道路が新しく作られるところだったらしいんですが、その巨大な佇まいに私は恐怖を覚えました。なんというか、古代の人が言うところの「巨人」みたいなものでしょうか。大入道とか、巨人とか、そういった伝承でしか見たことがないものが、その石の柱に映っていた気がしたわけです。
一度それを意識してしまうと、どんな場面でもそれが思い起こされてしまいます。街を歩いているときでも、全く明かりのついていないビルを見るとどきっとするし、工事現場の鉄骨だけ状態の建物を見ても怖いと感じるようになりました。少しでも人の気配がしたり、明かりがついていたりするだけでだいぶ緩衝されるんですが、そうじゃないものはとても怖いです。巨大な質量がそこに存在するという事実だけで十分です。
これと関係があるかどうかはわかりませんが、森や海なんていうものも怖くてダメです。こちらに関しても、やはり人の気配が全くない場所では怖さが来ます。たぶん、夜通し山の中にいろなんてことを言われたら、発狂するでしょう。ひどくなってくると、自分が着ている服が非常に心許ないもののように感じて、服と言うよりは防具と言ったものが欲しくなってきます。別に、今にも誰かに襲われそうな気がするわけでもないのですが…。
幼いころは、こんなことも全くありませんでした。普通に海水浴に行くし、登山もする、森林浴だって大丈夫でした。こうなり始めたのは、ここ2〜3年だと記憶しております。それまで平気だったものが、いきなり怖くなり始めました。共通点は「人の気配がない」「巨大な何かを感じる」というこの2点です。恐らく、これらが揃う場所ならば、私は無条件に恐怖を感じることでしょう。
以前、廃墟やダンジョンというものについて書いたことがあると思いますが、今となってはそういった場所も怖く感じるようになってしまいました。1度はどこかの廃墟に行ってみたいと思っていたんですが、今となってはそれも難しいかも知れません。これから生活していく上で、特に不具合はないんですが、それまで平気だったものがダメになると言うのも寂しい体験です。
(記載日:2009/11/22)
Textへ戻る