マンガやアニメには「お約束」と呼ばれる表現が存在しています。例えば、強力な破壊力を持つ兵器がいきなり現れたり、キャラクターがバランスを崩してこけてしまうと言ったような。今回は、そんなお約束の一つを取り上げ、うだうだとテキストを書いてみようかと思います。

 今回のネタは「犬に襲われる」です。学園マンガやサラリーマンマンガ、もしくはそれらのアニメで、さらにギャグが入っている場合、道を歩いていると犬に襲われるというイベントが発生することがあります。その場合、サラリーマンや学生は、犬を追い払うためにお弁当や所持食料を遠くに投げつけ、それを犬が食べている間に逃げるという行動をとります。ええ、それがお約束ですから。それが崩される場合もありますが、何かしら「食べ物」という物と縁が切れない位置に犬はいると思うんですよ。
 襲いかかってくる犬は、要するに敵意を持っているわけです。その敵意の塊のような犬が、たかだかお弁当の唐揚げやウィンナーに釣られ、敵を見失ってしまう。それは現実世界では起きうることなんでしょうか。それが罠であると考える頭を持ってさえいれば、犬は「敵」の前で、敵の放った食べ物に集るという行為はしないはずです。
 ここで、犬の目が重要になってきます。大抵の動物は、相手の感情を見た目で読みとることが出来るといいます。ということは、犬はまず相手が「怒っている」か「怯えている」かを理解できるということでしょう。そしてさらに言うならば、相手が怯えている=相手は攻撃をしてこない、という方程式で物を考えているかも知れません。そう考えると、怯えた相手が投げた食べ物に群がるのは、それが「相手の献上品」だと考えてしまうからではないでしょうか。
 別のパターンを考えてみましょう。要するに、犬は気が立ってる、そして腹が減ってるんですよ。だから、ケンカを売る相手を捜してて、たまたまそれが主人公であるのでしょう。だから、最初の目的である「空腹」を満たすことを優先的に考えてしまうのかも知れません。だからこそ、犬は主人公を殺る前に飯を食うんでしょう。
 もしかすると、単純に敵意なんざ関係なく、飯を見るだけで思考停止するのかも知れません。「んだ、このダボがぁ!ぶっ殺…あ、飯、飯ー!」という、ケダモノ特有の考えが働いたり。マルチタスクで物を処理できないんでしょうね。飯と敵、2つのインプットに対応出来ない。
 これを応用して、ちょっと考えてみましょう。犬獣人(雄)が田舎から都会に出てきたところ、都会はごちゃごちゃしてるわ空気は汚いわで、ストレスが溜まってしまった。さらに腹も減ってきた。腹が立って仕方がないところに、弱気そうな人間女性を見つけ、彼女が気に入らないでケンカを売るわけです。「何見てんだ?あ?」と。ところがその人間女性がお弁当を差し出すと、その犬獣人はいきなり飯のことだけを考え始め、お弁当を食べてしまう。おお、シャンゼリーゼ。ここで女の子はきっと逃げ出すでしょう。獣人は空腹を満たしたところで、節操無く戦闘をしかけようとしたことを後悔し、お弁当の箱を返すためにまた少女を探す、と。そしてそこから生まれる愛もある。うん、愛もある。
 そうでした。食べ物を投げられた犬は、主人公になつき、さらなる飯をねだる場合があるのでした。そこから生まれる愛もある?うん、愛もある。さすがは「お約束」ですね。たったこれだけのことに「戦闘が起きそうな拮抗状態」「恐怖」「戦闘を回避する機転」「異種族間で愛し合う奇跡」まで入れてしまうんですから。さすがだと思いました。よ、ええ。

 (記載日:2008/4/21)


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